カノンは、生まれてから15年もの間、無き者として扱われてきたという特殊経歴の持ち主だ。
一番多感な時期に他人との接触が極端に少なかったせいなのか、付き合っていく上での常識的な距離感がわからない様子。
ベタベタと無闇やたら人に触れたがり、ときにこちらがギョッとしてしまうほど、スキンシップ過剰で異様なまでの甘えたがりである。
かくいう俺も周りから「末っ子気質」とよく言われてしまうだけあって、じゃれ合いは結構好きだ。
不幸な星の元に生まれてしまったカノンとは逆で子供の頃の俺は、親兄弟がいなくとも寂しい想いをすることなく、この十二宮で年上たちに可愛がられて育った。
両手を伸ばして見せれば、何も言わずとも抱き上げてもらえたし、いけないことをすれば、叱ってもらえた。いつだって無償の愛を与えられていたと思う。
そんなだから、大人になった今でも遠くに友人の姿を見かけるや走り寄って飛びついたり、外でも平気でやってしまう。
こんなところが末っ子気質と揶揄されるゆえんなのだろうが、俺としては割りと自分は兄貴気質なのではないか、と思うのだ。
だって、今もホラ、甘えたな友人がぐんにゃり、俺に圧し掛かってきても、全然気にならない。