初の真面目にバレラダです。
片思いバンザイヾ(*´∀`*)ノキャッキャ
ラダマンティス様は、ジェミニのカノンに御執心だ。
例えそれが私がラダマンティス様に向けるような感情でないにしても、強く求める心は似ている。
雌雄を決する好機がまた巡ってくるならば、あの御方は何を賭してでもカノンの元へと馳せ参じるであろう。
私はペガサスとの戦いにおいて我が命を散らせてしまったことに深い後悔をしている。
相手の口車にまんまとハマッた上で倒されたのだ、面目が立たない。
完全な勝利で終われるところをみすみすと……。
アテナの聖衣が届きさえしなければ、あるいは冥王軍は敗れなかったかもしれない。
結局、私が崩壊の引き金を引いたようなものだ。
三界同盟がなった今、甦りし同胞たちはその点について何も言わない。
無論、誰もあの場に居合わせなかったせいだが。
ラダマンティス様には報告したが、お叱りはなかった。
それどころか「よく戦った」と労いの言葉をかけられる始末。
最終的にペガサスがハーデス様に傷をつけるほどの聖闘士だったというのは、言い訳にならない。
結局、私が弱かった。相手を侮ったことも含め。
それだけのことだ。
だからきっとラダマンティス様は私をお叱りにならなかったのだ。
お前の実力ではどちらにせよ、足止めできなかったろう。そう思われたに違いなく、何よりそれが一番、耐え難く、悔しい。
弱き者にラダマンティス様は興味を向けない。
弱き者を翼竜の瞳は映さない。
(好敵手であることが、存在を認められる唯一の方法だというのなら)
手にした書類の束を胸の前で抱き、前を歩くラダマンティス様の広い背中をそっと盗み見る。
(例えば、今、私が)
暗い廊下に二つの硬い足音だけが響き、壁に備え付けられた燭台の明かりが揺れた。
会話はなく、ただ、湿度を含んだ重たい空気が流れてゆく。
(部下である私が突然、牙を向いたとしたら……?)
裏切るはずがないと思っていた者が襲撃してきたら?
貴方は悦んでくれますか?
それとも、やはり拮抗した力がない敵には価値がありませんか?
ただ立ち向かう者では役不足ですか?
ああ、私はどうして冥闘士だったのだろう。
聖闘士であったなら、この方の後ろではなく、目の前に立てていたのに。
そしてその瞳に、戦っている間だけは映してもらえていたのに。
愚かな思いに耽っているとふいに前を行く背中が止まった。
「……バレンタイン」
「!! ……ハッ!」
姿勢を正していつものように返事をする。
「俺に思うことがあるのなら、ハッキリ申してみよ」
「……な、何を突然……」
まさか、考えが読まれた?
いや、そんなはずは……
じんわりと顔に汗の玉が浮く。
返す言葉を失って沈黙していると焦れたラダマンティス様が身体ごと振り返った。
「先程から、殺気がだだ漏れているのは気のせいか?」
「……ッ!!」
無意識の殺意が伝わっていたらしい。
私がうつむいた顔を上げると針のように鋭い、ラダマンティス様の両眼が冷たく光っていた。
……ああ。
私を、
私を見ている。
口元が自然と緩んでいくのが抑えきれない。
ラダマンティス様が、私を見てくれている。
「すきです」
「……む?」
思うことなら、ありますとも。いくらでも。
言葉に乗せよというのであれば、いくらでも。
あああ、貴方の仰せのままに。
貴方に告げたい言葉がある。
「……きです……好きです、ラダマンティス様」
長年温めてきた想いを吐き出した私を見て、ラダマンティス様は意表を突かれた顔になる。
「す、き?」
「はい」
「……ん? ……ん~…………行動と言葉が合っていないようだが?」
「いいえ。合致しています」
貴方が戦いを望む限り。
戦いを通してしか真に相手と分かり合えぬというのなら。
私は何度でも貴方に刃を向けましょう。
貴方に背くことでは決してない。
貴方への忠義と愛は、相反するものではないのですよラダマンティス様。
「……お前は時々、ややこしいことを言い出す。無理問答みたいのは苦手だぞ」
苦く笑ってラダマンティス様は再び背を向けてしまった。
もはやあの一瞬の鋭い眼光は消えていた。
私を敵視するまでもない、と。
私の想いは、届かなかったのか。
(なに、いつものことさ)
小さく息をついて後を追いかける。
「バレンタイン」
「ハッ!」
「俺も好きだぞ。お前のようなヤツは」
「……は……」
「……時々、意味を図りかねる行動に困惑はするがな」
微かに笑った気配があった。
……伝わってない。
たぶん、まったく。
しかし、好意だけは受け取ってもらえたようだ。
今はこれでよしとする。
「……あ、有難き幸せ!」
満足だ。
とりあえずは。
けれどいつか……
もっと力をつけて、貴方が認めざるを得ない戦士になりましょう。
戦いの場はまだ来ない。
だが和平が続くなどと私は考えない。
欲深いギリシャの神々がいたずらに戦を巻き起こさないと誰が言えよう。
戦の嵐よ巻き起これ。
私に与えよ、ハーピーの羽ばたきを聴かせる晴れの舞台を。
そのときこそ、貴方の心を……きっと。
(end)