カーティガンをスーハーしてる変態にしてゴメンナサイ、かのさん。
そんなワケで続きです。
夜風に当たろうと酒臭い部屋から抜け出し、なんとはなしに歩いているといつの間にか足が天蝎宮に向かっていた。
いるはずのない主の名を呼び、扉を叩く。
「……ミロ。ミロ……」
もちろん、応答があるわけもなく扉に手を添えたまま、ズルズルと膝をついた。
「…………ミロ」
しばらくそのままいたが、体勢に疲れて体を反転させる。
ドアに背を預けて両膝を抱え、そこに顔をうずめながらまた思い浮かべた。
日の光に似た金色の髪を。
青く突き抜ける空に似た瞳を。
(恋しい…………寂しい)
頼む。
どうか戻ってきてくれ。
俺は今、お前を必要としているのだ。
きっと、きっと、この世の誰よりも。
この心の叫びが届いたなら、どうか……
どうか。
どうか。
その両腕で頭を抱いて欲しい。
耳元にそっと囁いて欲しい。
傍にいる、と。
もしも、この願いが叶ったなら…………
カツン、コツン……
乾いた足音が建物の中に届き、俺は信じられない面持ちで耳を澄ます。
この気配……!
待ち人のものではないか!?
空しいばかりの願いは、ときに叶うこともあると初めて知った。
「……? エート? どうした、こんな時間に!?」
想うあまりの幻覚と疑いもしたが、俺の腕を引いて立たせようとする手の感触は違うことなき、本物だ。
奇跡。
これは奇跡だ。
何故、こんな中途半端な時刻に戻ったのか、そんな詮索は後回しだ。
俺は嬉しさを噛み締めて体を支えてくれようとするミロにすがりつく。
「気分は?」
気分? そんなの、決まっているではないか。
サイコーだ。
サイコー!!
帰ってきた。
戻ってきた。
あの男の下から、俺のところに。
正確には彼は自宮に帰ってきたのであって、そこに俺が居合わせただけの話なのだが、俺にとっては違う。
俺が願い、お前が応えたのだ。
「ったく、世話の焼ける……人んちのドアを塞いで何やってんだよ」
夜中にドアの前にいた男を不審がりもせずにミロは簡単に俺を招き入れると椅子に座らせる。
ここまで自力で上がってきた俺だ。
別に支えられなくてもなんということはなかったが、媚びた女よろしく、酔ったふりをして甘えることにした。
こんな見え見えの演技にもまるで気づかない彼は、いつの間にか冷え切っていた俺の体を気遣い、自らが着ていたカーディガンを渡し、さらにハーブティーを淹れてもてなす。
まったく、どこまでも他人を疑わぬ男だ。
いつかチャンスがあればと常にポケットに忍ばせている避妊用のゴムが入った袋をズボンの上から触れる。
どうしようか?
何があったか知らないが、恋人と再会を喜ぶ夜にしては帰宅が早すぎる。
喧嘩別れ?
ならば俺が慰めてやるよ。
それとも……
……………………結局。
この日は何もしなかった。
いや、この日「も」か。
いいのだ。
運は俺に向いてきた気がする。
水瓶との間に亀裂が入った音が聞こえたのだ、確かにこの耳には。
借り物のカーティガンを脱いで頬を寄せる。
「来い。俺の下へ」