思春期真っ盛りな少年カミュの、キチガイじみた恋模様。
方向性を間違えた愛情を親友に向けて、迷走。
死体が転がる他人の家で、無理強いの初体験。
表現はぬるいですが、カミュの人間性に問題あり+ややS気質なので、苦手な方はお気をつけ下さい;
花言葉シリーズで勿忘草という、もっと美しい話になるだろ!っていう題材をわざわざ台無しにしてみた感が……!(爆)
でもキチカミュ書いてみたかったんです;アワワ ヽ(´Д`;≡;´Д`)丿 アワワ
初めて出会ったのは、7つ。
初めてキスしたのは、12歳。
初めて繋がったのは、13歳。
私の親友であり、戦友であり、恋人だったキミ。
私の紅い瞳と髪を綺麗と褒めてくれた、幼いあの日から、私の心はキミのもの。
忘れないでいて欲しい。
私が愛したこと。
キミだけを愛していたこと。
それだけが真実であったこと。
……いつだったかな。
自分を表現するのが苦手な私に、キミが泣きながら訴えたことがあった。
もう嫌だ。自分ばかり好きみたいで、お前と一緒にいると情けなくて苦しい。
感情に素直で何事もストレートなキミは、こうやって不満をぶつけてくるのも直球。
あの言葉を聴いたとき、幸せを実感できた。
キミが困ると私は嬉しい。
キミが私のことで傷つくと愛しくてもっと傷つけたくなる。
もっともっと私を追いかけて欲しい。
私は気のないフリで、振り回す。
でも手放す気なんか微塵もない。
キミを泣かすのは私の特権。
私のイジワルはキミが好きでたまらなかったから。
キミを繋ぎとめておきたい、キミの愛を確かめたい。
信じているけど、何度でも確認したかったんだ。
どれだけ愛されているかを。
今までイジワルばかりごめん、私の好きな人。
初めて出会って、人知れず幼い恋を温め続けて。
キミの一番になりたくて、仕方がなかった。
覚えているかな、町で一緒に迷子。
本当は道を知っていたんだ。
少しでも長く一緒にいたくて、わざと知らないフリをした。
不安で泣き出す君の手を引き、ナイト気取りで誇らしかった。
それで本当はわかっていた帰り道を、さも今、発見したかのように導いて、キミから向けられる尊敬の眼差しに酔いしれた。
ときどき、面倒くさいとか、うざったいとか、酷いことを思いながらも、よく笑いよく怒り、よく泣いてよく取り乱す、素のままのキミが好きだった。
次の聖闘士を育てよと東シベリアに派遣されることになった12歳。
そんなに遠く距離が開いてしまったら、私ことなんかすぐに忘れられてしまうのではないかと際限なく不安が広がった。
それでキスをしようと決意した。
本当は、ずっと前から……
その柔らかそうな唇にふと目線が止まる度に、してみたいな、なんて憧れを強めていたけど……いつも言い出せずにいた。
けれどお別れにかこつければ、許してもらえるかもしれない。
「ミロ、キスをしたこと、あるか?」
胸の高鳴りを見透かされたくなくて、キスがどんなものなのか実験をしてみよう、なんてごまかしの提案をしたら、叱られた。
まだ私たちは、トモダチだった。
カミュといえばミロだし、ミロといえばカミュだった。
親友で戦友だった。
けど、私はもっと近しくなりたいと望んでいたのだ。
どこからが自分でどこからが相手なのか、境界線が曖昧になってしまうくらい混ざってしまいたかった。
かといって「恋人」という関係には否定的という、なんとも矛盾に満ちた思春期。
恋人というのは、オトナの男女に限るくくりだとなんとなく思っていた。
……ちょうど、オトナはキタナイとか男女の恋愛なんかキモチワルイと頑なに思っていた年頃だった。
遠い昔、男を渡り歩いていた母親を嫌悪していた影響が多少はあったかもしれない。
あのヒトは、母親である前に女であり続けた。
特に服や宝石を買い与えてくれる、羽振りのいい男が好みだったように記憶している。
そこにあるのは、愛ではなく打算。
そもそも女は子供を生み、育てるために男を利用する生き物だ。
……なんて、偏見に満ちた一方的な見方をしていた。
異性である限り、突き詰めたところ、子孫を残すため繁栄のためにイキモノが存在するというのであれば、間にある愛情すらあらかじめプログラムされたシナリオではないか。
けれど私たちは違う。
男の子同士なのだから、種の存続や保存なんか関係ない。
だから、我らの間に芽生えるとしたら、それこそが真実の愛。
打算などという穢れたものが入り込む余地などない。本物の愛なのだ。
私たちの間にある感情こそが、純粋で崇高で尊く、美しいのだと勝手な理想論を掲げていた。
本当は異性だろうが同性だろうが大人だろうが子供だろうが同じことなのに、オトナの男女は低俗であり、自分たちは違うのだと思いたがっていただけ。
結局、キスの提案は、一度は却下されたものの、本気で嫌がっていないのがわかったから、そのまま宝瓶宮の柱に身体を押し付けて、触れるだけの口付けをした。
時間にしたら、きっと数秒程度だったと思う。
唇を離すと君は顔を真っ赤に染めてうつむき、帰ると一言残して走り去った。
私は達成感と喜びのあまり、叫びだしたい衝動を抑え、無言で両方の拳を握り締めた。
これであのコは私のモノ。
そんな確かな実感が胸に広がるのだった。
東シベリアに送られても自分からは手紙を書かなかった。
キミから来るまで書かないと決めていた。
その代わりに爪を紅く塗った。
深紅が似合う、キミを想って紅くした。
本心は、長く逢わなかったら忘れられてしまうのではないかと不安でたまらなかったのに、子供じみた意地を張っていたのだ。
キミの言いようを借りるなら、自分ばかりが好きみたいで、少し悔しかった。
■□■
それから1年を挟んで、私たちは一時的に再会する。
とある雪国で小さな村が一夜にして丸ごと消失した。
その不可解な事件の調査に駆り出されたのだ。
結論としては、魔物の復活が原因。
二人で魔物を倒したまでは良かったが、まさかの遭難。
吹雪く中を歩き回るのは危険だと人の消えた村に戻り、宿を求めた。
「嫌だ、こんなトコ! いっぱい人が……」
魔物が食い散らかした人間の残骸。
「帰りたい、早く帰りたいっ!!」
「ダメだ、雪山をナメるな」
村に立ち入ることを拒否するミロの手首をつかんで引きずり歩いた。
「俺たちなら大丈夫だ、仮にも黄金聖闘士だぞっ! 聖衣は凍らない!!」
「落ち着け、いくら聖衣の防御力があっても中身の我々は生身の人間だ。自然の脅威に敵うワケがなかろう!」
黄金聖闘士とはいえど、戦場に慣れているわけではなかった。
何故なら、我らが出撃するのは人の力ではどうにもならないモノが相手になるときに限られていたからだ。
冒険小説でもあるまいに、そんなモノはそうそう登場したりはしない。
……少なくともこの現代においては。
世界のあちこちで未だ人同士の争いは収まらず、毎日多くの命が失われているけれど。
人智の粋を集めて殺し合う戦争に私たち聖闘士は加担しない。
我々が拳を向ける相手は、人有らざる力を振りかざすモノに限られている。
例えばそれは古の魔物であったり、我らと同じような超常の力を持つ人間であったり……邪神であったり。
だから、まだ幼い親友の取り乱しようは人として当然だったのだ。
私は、何も感じなかったけれど。
そこらに食い散らかされた人間の死体は、私にとって、ただ、破壊された見ず知らずの肉に過ぎなかった。
昔、ミロと二人で可愛がった猫の親子が死んだときには涙したが、残念なことにこの村を見ても心は動かなかった。
猫とは触れ合ったが、ここの住民と触れ合う機会は一瞬足りともなかったから。
ひょっとして、まだ彼らが生きているときに田舎の素朴で愛すべき性格を魅せられていたらまた違ったろうが、我々に出撃命令が下ったときにはすでに滅びた村だったのだ。
だから鈍いこの心は動かなかった。
そんなことよりも私の関心は、心細げな親友一人に集中していた。
雪に慣れた私は、身を寄せる場所さえあれば遭難といっても大したことはないとわかっていたから、不安など感じていなかった。
何しろ、これまで村の人々はちゃんとここで生活をしていたのだから。
雪山などと言っても、人が暮らしを営んでいる範囲だ。
ごうと荒れ狂う風の音しか聞こえない空間で、二人きり。
私は少し、嬉しかった。
手を強く握り、明かり一つない家に上がりこむ。
まだ魔物が残っていないとも限らないからと暖炉にさえ火を入れなかった。
本当は、無残に転がる家の住人の姿が浮かび上がってしまうと都合が悪かったからだ。
「ヒトんち入って叱られないかな」
場違いな心配をするキミに私は笑った。
「いないさ、誰も。この家にいるのは私たちだけだ」
……嘘は言っていない。
彼らはもう、いない。
身体はそこにあっても、もういない。
それなのにキミはホッとして。
……おかしいの。
魔物が来たらと心配するよりもこのままでは凍死するとやむなく聖衣を外し、寝室のベッドから持ち出した布団に二人で一緒にくるまった。
ベッドを借りてしまえばいいと提案したが、ミロが嫌がったので床に直接座ることにした。
本当に、本当にそこは黒に塗りつぶされた世界。
外に出れば雪のおかげで多少は明るさが感じられたが、家の中はまったくの闇。
瞼を閉じていないのに、真っ暗で自分の手すら確認できない。
悪魔のような風の唸り声とキミの温度、そして自身の鼓動だけが黒の世界にあった。
私は……
「なに……カミュ?」
「…………。」
「わわ、ちょっと……なんで服に手を入れるんだよ、冷たいったら」
「…………。」
「くすぐったいって」
「…………。」
「……や……やめてよ、カミュ」
「…………。」
「なんで黙っているんだ、何とか言えよ」
「…………。」
「カッ、カミュ!? ま、待て、なんかっ……へ、変なトコ触ってるってばっ!! ちょっとっ!! やめろったら!!」
死体が転がる他人の家で、真っ暗で相手も見えない状態で、親友を床に押さえつけて……犯した。
手探りで記憶と想像を頼りに身体をまさぐる。
徐々に怯えを含むキミの懇願など耳も貸さずに。
この任務が終わればまた離れ離れになってしまう。
もしかしたら、誰かに盗られてしまうかもしれない。
強引で急性な私の行動に、そんな焦燥感があったことは否めない。
初めこそ抵抗されたし、抗議の声が飛んできたが、
「……黙れ」
そう言ったら大人しくなったから、きっと嫌ではなかったはず。
本当に嫌なら抵抗できるだけの力を持っているのだから。
いくら13歳のこの時点では、私の方がはるかに成長が早かったとはいえ、彼も黄金聖闘士。
本気で抵抗すればそれで済む。
当時の我々は、まだ大人には遠く、けれど子供というほど子供でもなく。
稚拙なりに自分の世界観を構築しようと足掻いていて。
大人から見れば、些細なことが私たちには譲れない。
精神的に揺れていたあの頃。
大人はズルくて汚くて、女もあざとくて汚くて。
この醜い世界で、唯一、純粋で綺麗なのは、私のただ一人の友だけだと本気で思っていた。
そのキレイなキミの初めての相手は、この私。
キミが私にとって特別であったように、私もキミにとって特別でありたい。
特別である確たる証拠が欲しい。
視界がない中での初体験は、感覚だけが鋭く尖って、あまりの気持ちよさに気が触れそうだったと記憶している。
泣いたようなキミの、声にならない声と、どちらのものともつかない荒い息遣いがまともな感覚を奪っていく。
蕩けそうに身体が熱い。
彼の中が熱い。
これこそが、混ざってしまうということなんだ。
朝方、目を覚ましたら、窓に血の手形があった。
窓から逃げようとしたであろう家の主が、下半身のない遺体となってその窓の下に転がっている。
ミロがまた騒ぎ出さないうちにと、私は家の住人を全て外に放り出した。
戸を閉めると同時に背後で彼が眼を覚ます気配がした。
「わぁ、キレイな模様」
寝ぼけているのか。
キミは眼をこすりながら、激しい血飛沫が床や壁に描き出した不規則なアートを見て口にした。
「赤くて……きれい」
ぼんやりと呟いて、でも私と目が合うと顔を上気させて、布団の中に顔を引っ込めてしまった。
(……可愛いな)
もっと啼かせたい。
私は思った。
それから数日間。
吹雪が止むまで食事は家のもので済まし、することがなくなると大人に咎められそうな猥りがましい遊びを繰り返す。
もう、初めのように抵抗されることはなかった。
「俺、なんか鉄みたいな匂い、好きかも……なんの匂いなのかな」
ミロは私の身体の下で、甘いため息交じりに言った。
鉄……それは、酷い血の匂い。
すでに乾いて変色した血だったが、それでもまだ独特の香りを残している。
とてもじゃないが、私にはよい香りとは感じられなかった。
私はキモチのワルイ子供と大人から嫌われることが多い。
きっと、村の犠牲者たちを悼むより、好きな友達と混ざりたいとそればかり考えているようなところがいけないのだろう。
他人からどう言われようとどう評価されようと構わなかったが、人として大事な物が欠けている自覚はあるにはあった。
だけど今、この香りに酔って妖しく微笑む友人を目の当たりに、このコもおかしいと感じた。
優しくて思いやりがあって、私のように冷淡じゃないのに、何かがおかしい。
普段はまったくわからなかったのに、今度のことでよくわかった。
私たちは欠けた者同士。
だからこうしてお互いを補完し合っているのだ。
出会うべくして出会ったに違いない。
その確信は強まるばかり。
■□■
履き違えた愛情は、方向修正できないままで成人するまで続く。
細く華奢で私よりだいぶ幼かった友人は、成長期に入ると嘘みたいに大きく逞しくなって、けれど相変わらず綺麗で可愛い。
少なくとも、私にとっては。
ただ少しだけ変わったのは、私のこの友人だけが純粋な存在だという思い込み。
私が好意を抱く者を特別視するあまりに神聖視してしまうのだと途中で気がついた。
何故なら、弟子たちにも愛情を注げるようになったから。
可愛い可愛い、天使のような弟子たち。
私は自分が聖域に行くとき、留守番をする二人にいつもうるさく言い聞かせる。
変な遊びをするんじゃないぞ、と。
自分たちのようなことをこの子達が私の留守中にしているなんて考えると眩暈がする。
こう考えることができるようになった私も、多少はマトモな人間に少し近づけかもしれない。
私たち二人が、キチガイじみていることを自覚できるようになったのだから。
それからオトナや男女の恋愛が汚いという偏見も年齢を重ねるうちに薄らいでいく。
……ゲンキンなものだと我ながら笑ってしまう。
自分が成人したら、オトナは汚くないことになってしまうのだから。
酷く頑なで歪んだ想いを抱え、持て余していた少年時代。
その終わりは意外と早い。
初めて出会ったのは、7つ。
初めてキスしたのは、12歳。
初めて繋がったのは、13歳。
初めて死ぬのは、20歳。
自分が死ぬ前日、どす黒い予感を抱いていた私は彼に毒入りのワインを彼に渡した。
誰かに盗られる前に……と思ったのだ。
渡されたグラスに入った赤い液体をしばらく眺めた後に私を見てキミは嗤った。
「このミロを敢えて毒で殺そうというのか、カミュよ」
一発で見抜かれた。
けれどそのまま本当に煽ろうとするから、思わず手を払って毒入りのグラスを割ってしまった。
やはり……
キミに死んで欲しくはなかったのだ。
でも、遺して逝くのも辛い。
生きている時間のほとんどをキミを想って過ごした。
キミを泣かせるのも、キミを抱くのも、永遠に私だけの特権であって欲しい。
どうしたら私がいなくなった後もキミの心を繋ぎとめておけるだろう。
キミのその後の幸せなんて知ったことではない。
キミはもういない私のことだけ考えて、私のために涙を流せばいい。
思い余って毒を飲ませようとしたあの夜。激しく抱いた感覚をずっと覚えていて欲しい。
そして、もしも次があるのだとしたら……
来世というものがあるのだとしたら。
もう一度、私とつながって欲しい。
私は欠けたままで待っている。
キミがいてはじめて私であるように。
勿忘草:私を忘れないで、記憶、真実の友情、真実の愛、真実の恋