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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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クリムソンクローバー[カミュミロ]

仔カミュミロが初対面で、聖闘士になるための試合を直前に控えた頃のお話。
ミロが可愛がっていた猫の親子が殺された事件をきっかけに形作られる友情。
基本シリアスで重い内容ですが、カミュの初恋がパリーン☆だったり、ミロがカミュにボコスカ殴られてヒーヒー言っていたり、カミュが海賊王になると宣言したことになっちゃったりと登場人物がアホの子ですので、ライトな仕上がりになってます。

こんな幼児嫌だわ!っていうのが裏テーマ?でカミュが難しい単語を連発しています。
ミロも何気にコワイです。
いつものコトかもしれませんが;

あと季節矛盾してます。
クリムソンクローバーは暑さに弱く、猫の子育ては暖かい季節。
しかもそれも日本での話で向こうではどうかわかりません(爆)
その辺は大目に見てやって下さい、すみません。

仔カミュミロは勝手にイメージ曲が「輝ける星」です。
カワイイ曲なんですー♪(*´ω`*)


聖闘士の総本山である聖域に私は来ていた。
 聖闘士の資格を得るための最終試合に臨むためである。
 狙うは黄金、アクエリアス。
 低年齢ながら、私は我が師の英才教育を受けたパーフェクトなる作品だった。
 心を乱すことなく、冷静に、敵を屠る。
 それだけを目的とした生粋の戦士……の、つもり……だった。
 だった……けど……
 だって、しょうがない。

 

 聖域内にある訓練場に赴いた私たちを待っていたのは、自分の何倍もの大きさの候補生を眼にも留まらぬ早業で倒す、幼子の勇姿だった。

「どうだ、あの子は? お前と同い年だが」
「……カ……」
「か?」
「カワイイ……です」
(あのコだ)

 頭が、ぼぅっとなった。
 こんな感覚は初めてだった。
 風邪でも引いて熱を出したのかと思ったが、それにしてはなんだか気持ちがいい。
 こんなに胸がきゅうっと苦しいのに。

「エッ?! カワ……?!」
「あっ、あの……私に比べればっ! という意味でっ!!」

 取り乱した。
 見惚れるあまりについ本音が……

「確かに眼を見張るものがありますが、動きが洗練されておらず、雑で荒削りです。それに小宇宙にもまだ波がありました」

 正直、数秒で終わった試合などまったく目に入っていなかった。
 見えていたのは、あの子の顔や動くたびに色んな表情を魅せてくれる金色の髪だけだった。
 そもそもそんな短時間に終わった戦いで何がわかるというのだ、何が荒削りだって?
 そんなの、知らん。
 相手が弱かったのはよくわかったが。
 我が師は、私にやや疑わしい視線を投げかけたあと「ふむ」と頷いた。

「そうだな。完成度はお前の方が上だろう。あれだけの動きで相手の実力まで見通すとは」
「……とっ、当然です」

 そんなやりとりの中、始めの合図があってすぐさま気絶させられた相手がむくりと起き上がり、自分が負けたことに気づかないのか、少々腑に落ちない表情で戦闘の構えを取った。
 当の勝者は、背中を向けてしゃがみ込み……

「あっ、トカゲみっけ~♪」
「こ……この……ふざけてんのか!」


「そこまで! 敗者は潔く負けを認め、精進するように!」

 襲い掛かろうとした候補生を凛と通った声が制止した。

「サッ、サガ様!」

 ……サガ?
 見学していた者たちの群がざわつき、すぐに静まる。

「よく見ておけ、カミュ。アレが神の化身とも言われるお方……黄金聖闘士・双子座のサガ様である」
「……!!」

 師に習って片膝をつき、頭を垂れた。

(なんという、重厚な存在感!)

 気がつけば、玉の汗が額に浮いている。
 姿を見ただけで、存在を認識しただけで畏怖し、酷く緊張していたのだ、私は。
 これから同じ舞台に立とうとしているのに、この差はどうしたことか!
 よいのか? 私如きが黄金聖闘士を目指しても?

「あっ、サガだっ♪ サガ、あのな、トカゲ! トカゲめっけた」
「ぎゃ!? こ、こら、持ってこなくていいからっ」

 その双子座のサガ……様と親しい間柄なのだろう彼女はトカゲを手にしたまま彼に飛びついた。
 なんというか……素朴で愛くるしい……

「あげる、あげる~♪」
「いらないっ! ポイしなさい、ポイッ!!」
「えぇ~、いらないのかぁ? せっかく……」
「トッ、トカゲさん可哀想だろう? だから、ポイッ!!!」
「……はぁい。ポイッ☆」

 ポイッ……としたトカゲは空高く舞い上がり、落ちてきて―……サガ様の服に、スッポーン☆

「いっ!? うわわっ!? なんか今……背中に……ぎゃああああ!!!!」

 神々しさを纏った双子座のサガは、突然、ただの少年に戻ってその場でもがき回った。
 ベルトを外して上着を引っ張りばたつかせ、ようやくチョロリと逃げていったトカゲを確認すると少女の頭を軽く叩く。

「……トカゲだのケムシだのいちいち見せに来なくていいからっ!!」
「ケムシじゃないぞ、ふわふわで可愛いイモムシだもん」
「ソレを世間ではケムシゆーのっ!」

 周囲から笑いが起こる。

「まったく、訓練場を出るまではそういうモノに興味を移すんじゃないと言っているだろう」

 サガ様は彼女を軽い荷物のように片腕で右肩に担ぎ上げるとその場を立ち去った。

 

 完全に置いてきぼりを食らった、敗者と断じられた少年は呆然とそのやりとりを見ていたが、やがて怒りに顔を紅潮させて出て行った。
 後ろに数名の候補生がつき従う。
 同門なのだろうか。彼らの中では実力者の部類に入るのであろう少年に「もう一度やったらアンタが勝つに決まっている」などと見え透いた慰めをしている。
 当たり前だと不機嫌に叫ぶ敗者の姿は、誰の目にも憐れを誘う。
 途中、大柄な彼がぶつかってきて私は尻餅をついたが、一瞥されただけで謝罪はなかった。

(やれやれ……だな)

 すぐに立ち上がって、尻についた埃を払う。
 あの態度を私はよく知っていた。
 こんなチビに負けた。
 そんなハズはない。
 あれはたまたまだったと己の力量を測れない愚か者の目だ。
 私の周りにもそんな連中ばかりだから、考えていることは手に取るようにわかる。

(上の者の目の届かない別の所で、また彼女に突っかかりにいくんだろうな)

 ああいった手合いのやることはワンパターンである。
 これまで私が壊してきた、我が兄弟弟子たちもそうだった。
 だが余計な心配はしない。
 どうせ先程の再現がなされるだけだ。
 アイツがどう抗おうが結果は変わらない。
 せいぜい、2秒か3秒、立っていられる時間が伸びる程度であろう。

「サガ様のことは気にするな」

 私の絶対なる自信が微かに揺らいだのを見抜いたか、我が師が言った。
 現在、最強と目されているのがサガ様だという。
 対抗できるのは、同じ黄金のサジタリウスのアイオロス様のみだとか。
 それに歳が離れ過ぎている。
 やがてお前も同じように伸びようという師の言葉とこれまで努力してきた自分を信じることにした。

「サガ様が師というわけではないが、あの子にはだいぶ目をかけている」
「ええ」
「恐らくあの子は、共に背中を預けるようになる、お前の戦友の一人となろう」
「……といいますと……」
「そうだ。同じ黄金聖闘士の候補生。覚えていて損はないぞ」

 アレが……?
 黄金聖闘士に?
 しかも並び立つことが可能というならば、水瓶ではない別の星座。
 このカミュと……肩を並べようというのか……

「ふ。そう、ですか」

 自然と私の口元に笑みが広がった。

 

■□■

 

 クリムソンクローバーの咲く赤い野原で、幼い私たちが出会った。
 名も知らないキミは私に近寄って言う。

「わぁ、きれい♪ ストロベリーキャンドルみたいっ」

 誰だ? と思うよりも前に、目の前に突然現れた金髪クセ毛の少女を「可愛い」と思ってしまった。

「ストロベリー……キャンドル?」

 少し考えて、ああ、この花……クリムゾンクローバーのことかと気がついた。

「キミのその髪、とてもキレイだ」

 え? 私? 髪を、褒めていたのか。
 人懐っこく側に来て、微笑むこの子は一体……

「眼も赤いんだな。俺、赤は好きだぞ。ウサギさんみたいだっ」
「う……うさぎ? 初めて言われたな、そんなこと」

 どう反応していいかわからない。
 そうでなくとも私は人が苦手だ。
 なのにこんな風にいきなり近くまで寄ってこられると困る。

「きっ、きみこそ、たんぽぽみたいな頭だな」
「タンポポ!? そんなにぼわんってしてるっ!? アフロヘアみたい!?」

 自分の髪を押さえて彼女はあわてて見せた。

「いや……綿毛の方でなく……」

 金髪の子がタンポポと言われたら、普通は黄色い方を連想するのではないか?
 まさか綿毛でこようとは予想外!
 ついおかしくなって、噴出してしまった。

「そ、そか。へへっ。ビックリしちゃった、お前のクセ毛はもっふもふって皆がからかうから」
「……もふ?」

 モフモフ……うわ、本当だ。
 わぁー……ちょっとナデナデもふもふしてみたい……

「あのな、この近くにな? にゃんこ……あっ、猫生まれたんだよ。見に来る?」
「わ、私は……」

 東シベリアで修行していた私は、師に連れられて本日、初めて現地入りした。
 聖闘士の資格を取得するための試合に出場する手続きで師は私をその辺に置いて行ってしまった。
 すぐに戻るからここにいるように、と。
 離れるわけにはいかない旨を伝えようとするその前に、彼女は私の手をつかんで走り出してしまった。

「あの、あのな? 仲良しのお母さんニャン……猫だから、子供いるけど平気なんだ。いつもご飯持ってってあげんの。今からご飯あげる時間だから、一緒にいこっ♪」
「いや、私は……その……」

 ……困った。
 全然、私の話を聞くそぶりがないぞ?!
 何度も言うようだが、私は人が苦手である。
 私はあまり無駄口を利かないし、表情も乏しいらしく、似たり寄ったりの年齢の子には「怖い」と思われがち。
 大人からは「可愛くない子供」あるいは、「お人形さんみたいな子」だ。
 だからこんな風にぞんざいに扱われるのは初めてで、どうしたらいいのか戸惑っているうちに林の中に入ってしまった。

「おぅーい、ゴンちゃーん♪」
「……ゴ、ゴン……!?」
「ゴンザレスってつけたんだっ☆」

 な、なにゆえ、ゴンザレス!?
 私には到底、理解し難いハイセンスな名前で呼ばれた“お母さん猫”が草むらから現れた。
 しゃがんだ彼女は手にしていた包みを広げて、自分の食事を残してきたに違いない食べ物をゴン…ザ…………う、うん、猫に差し出す。
 少しばかり新参顔の私に警戒を払った後、母親はそろりそろりと近づいて、エサに口をつけた。
 遅れて母親猫についてきたのは8匹の仔猫。
 母が食べている物に興味を示したり、私たちの足にじゃれついたり。

「なー、可愛いだろ? ……はいっ」

 一匹を抱き上げて、こともあろうか私の手に!

「ちょ……!?」

 ま、待て! 待つのだっ!
 わ、わ、私はっ……イキモノを抱いたことが………………ナイッ!!

「いっ、いい、私はっ、猫はっ」
「可愛いんだよ」
「可愛いケドもっ!!」
「だろ~?」

 手の中でモゾモゾとうごめく温かくて柔らかいもの。
 少しでも力を入れたら、潰れて死んでしまいそうで怖い。
 見ず知らずの私の手の中に、その命を握られているというのに何の不安も感じず、全てを委ねてミィミィと愛くるしい声をあげている。

「初対面の者にこんなにも警戒心が薄いのでは、この種は絶滅を免れんぞっ」
「……けいかいしん? ぜつめつ?」
「そっ、そうだっ」

 キミもだ、キミもっ!
 私の名もすじょーも知れぬというのにっ!

「……ぷっ。あははっ」

 仔猫をどうしていいのかわからず、固まったまま説く私をきょとんとした顔で見ていたその子は、ややあって笑い出した。

「じゃあ、キミも全滅しちゃうかな? 見ず知らずの俺についてきて。もしかしたら、正体は魔物かもしれないのに」

 ぎくりとして私が後ずさると彼女はまた屈託ない笑顔を見せた。

「……心配ないよ。ニャンコは野生なんだから。危ない人とそうでない人の見分けはつくに決まってんじゃん」
「そうだろうか……」
(ただの怖いもの知らずなだけの愚かな生物にしか思えないのだが)
「キミって変わってる。でも……えへへっ、優しいんだ♪」
「……何故?」

 優しいなんて……そんなこと、言われたこと、ない。
 よく出来た子。
 冷たい人形。
 嫌味なヤツ。
 ナマイキ。
 私はそういう子供だ。

「だって心配してるんじゃん、ゴンちゃんたちのこと」
「べっ、別に心配しているというわけではっ」
「そうだ。あのな、特別に必殺技教えてあげる」
「必殺……?」

 言うなり、彼女は抱いていた仔猫を下ろして、クリムソンクローバーの中に寝転がってしまった。

「早く早くっ♪」

 私にも同じようにせよというのか、手招きをするので仕方なく隣に転がってみた。
 木々の間から青空が覗いて温かな風が前髪を撫でてゆく。
 ああ、気持ちが良いな。
 思わず口元が緩んだ。

「ミャ~」
「うっ!?」

 ね、猫が……抱いていた猫が横になった私の身体を這い登ってチューしてくるっ!
 他の仔猫たちもよじよじと……わ、わあぁっ!?
 ど、どうしよう、どうすれば……!?
 しかしっ! なんということだっ!!

「可愛い……」
「だろっ? だろ~?」

 なんという……、なんという夢の必殺技か!!
 キュンときた! ウットリした!
 ば、ばかな……このカミュとあろう者が。
 クールを剥ぎ取られて、ほややんになってしまうとは……っ。
 くっ、やるな、猫よ……!
 そのうち食事をし終えた母猫までが私の胸に乗って顔を覗き込んできた。

「ウニャ~ン」

 ざらついた舌で頬を舐めてくる。
 はわわっ。なんと愛らしいのだ、猫というイキモノは。

「あ。しまった」
「ん?」
「もう時間だ。行かなくちゃ」

 少女は仔猫を自分から引き離すと起き上がった。

「え? もう? ……いや……では私も戻ろう」

 もうそろそろ師が戻って、私を捜しているかもしれない。
 林を出て、私たちは別れた。

(猫……みたいな子だったな)

 人懐っこく擦り寄ってきて、自分の都合で去ってゆく。
 互いに名乗ることもなかった。
 しかし、聖闘士候補生であることは確かだ。
 ひょっとしたら、またどこかで逢うかも知れない。

「猫……温かくて、軟らかかった……」
(あのコも、そうかな……?)

 胸に小さな疼きを覚えて、足元の花を一輪、失敬した。

「……心拍数、上昇中……」

 他者への興味を持てなかった私が、初めて心に留めたのが翌日に訓練場で見たあのコであった。
 名前は、師から聞いた。

(ミロ……ミロか)

 確か、ギリシャ語で林檎だったか?

(ミロ……ミロちゃん……)

 愛らしい名前だ。
 摘んできたクリムソンクローバーを目の前にかざしてなんとはなしに見つめながら、ちょっと男勝りだった不思議なあのコのことばかり考えた。

「……ところで師よ」
「何だ、カミュ?」
「何故、仮面をしている人が多いのですか、聖域は? これから何か祭りでも?」
「ん? 教えたことはなかったか? 女性の聖闘士は仮面をつけるしきたりがあると」
「……いえ……初めて聞きます。候補生も、でしょうか?」
「そうだ」

 ……あれ?
 おかしいな?
 そうすると……あれ?
 困る……な。

「どうした、カミュ?」
「……それだと……あの……私としては都合がよろしくないことになるのですが」
「……?」
「いえ……なんでもないです」

 ………………。
 ……聞かなかったことにするか、現実を受け止めるか……
 それが問題だ。

 


■□■

 


 予想は、ほぼ的中した。
 しかし、方法が解せなかった。

 


 聖闘士の頂点の証である黄金に輝く聖衣を与えられるのは誰か。
 その栄光を勝ち取る者は誰か。
 教皇御前試合まであと一日と迫った今日。
 私は赤い野原に足を運んだ。
 猫を見に来た……と言っておこう。
 だって、彼女は彼女ではなく彼だったのだから、私が彼に会いに来るのはおかしい。
 いや、トモダチだ。トモダチになりたいのなら、来てもおかしくないかな。

「サガ様の前で恥をかかせるからだ」
「ざまーみやがれ」
「……サガ様、俺のことどう思ったかな」
「大丈夫だって。明日、勝てばそれでいいんだからさっ」
「そうだよ、スコーピオンクロスはアンタのモンだって」

 サガの名が耳に飛び込んできて、一瞬、思考が止まった。
 振り返ると数名の候補生の少年たちが遠ざかっていくのが見えた。
 しかしただそれだけで私は彼らの存在を意識から流してしまう。
 見ず知らずの彼らの会話なんかより、猫だ。
 猫の方がずっと優先順位が高い。
 単純にサガという名に反応してしまっただけの私は、頭の中を別のことでいっぱいにして林の中に踏み込んだ。

(この辺……だったか?)

 すると草を踏む音が向こうから近づいてきて……

「え……と……?」

 ……無言で抱きつかれた。

「うわ」

 何事?!
 彼女……ではなく、彼は私の肩に顔を埋めるようにして震えていた。

「……どうしたのだ……えと……ミロ……?」

 遠慮がちに呼びかけてみたが、返答はなく、代わりにくぐもった嗚咽が漏れ聞こえた。
 泣いている彼女……あ~……じゃなかった、彼を、ミロを慰めるつもりで背中に手を回し、ゆるく抱きしめた。
 しばらくするとミロは大きな青い目にいっぱいの涙を浮かべたまま、私を見た。

「……助けて……カミュ」

 相手が泣いているというのに、私は場違いな感想を抱く。

(うっ。……か……可憐だ)

 己の何倍もありそうな相手を瞬殺した相手に対しておかしいかもしれないが、名指しで助けを求められ、守ってあげたい保護意識を刺激されてしまう。

(ん? 名指し……)

 そんな夢見がちなことを思っていたら、ミロがようやく口を開いた。

「助けて……ゴンちゃが……」
「……猫が……どうした?」

 その一言で、一気にお気楽だった気分がなりを潜める。
 何故、私の名を知っていたのかという疑問は、意識として形になる前に掻き消えた。

「わかんない、今、来てみたら……ぐすっ」

 ミロの案内で現場に向かうと私はその凄惨な場面に思わず眉をしかめる。
 赤いクリムソンクローバーの上に、猫……が。

「ゴンたちが大怪我しちゃったよぅ!」

 内臓が露出した母猫を抱いて、ミロが叫んだ。
 驚くべき生命力でそれでも母猫は、ニャアとか細い声で鳴いた。
 ……仔を呼んでいるのか、それとも……
 自分の爪先から血の気が引いて、冷たくなってゆくのがわかった。
 命が消えていくのを実際に目の当たりにするのは、初めてだったから。

「どうすればよいのだ? カミュ、どうしたらよい? 病院? 病院かなっ!? サガ呼んで来るから、カミュここで診ててっ!」
「ダメだ、ミロ! 病院に連れて行ってももう助からない!!」

 むしろ、まだ息があるのが奇跡だ。
 いや、もう、死んだのか?
 ミロの手の中の小さな命は、最後の一鳴きの後、反応を示さなくなった。
 周りに散らばる、仔猫の残骸も恐らくは叩きつけられたか踏みつけられたかでほぼ圧死。
 中には首や四肢が切り取られている遺体まである。
 なんと惨たらしい……
 仮にも女神に仕える聖なる戦士を目指す者が、このような所業をしてよいものか。
 かくいう私にも聖の字を冠に戴く自覚はあまりなく、ただ師の言うとおりに身につけた力を正しく発揮しているだけに過ぎない。
 だが、そんな私でも赦せる範囲を超えていた。
 聖闘士を目指すものの中には、多くの割合で乱暴なだけの輩がいるのは知っている。
 特別な力を誇示したいのだろう。
 だが……猫を相手に?
 いや、違う。

(ミロの……)

 クリムソンクローバーに散った猫の血を見つめていた私は、泣きながら仔猫を拾い集めている彼に視線を移した。

(ミロのせいだ)

 私はこの林に入る前に側を通り過ぎて行った一団を思い出していた。
 あれは昨日、ミロに敗北し、サガに叱責を受けた者だった。
 彼が猫を可愛がっているのをどこかで知り、報復に出たに違いない。
 そして、ひょっとしたらもう一つ……

「ミロ、明日は必ず勝て」
「……なに、急に? それよりにゃんこ……あっ、猫が……」
「ニャンコのカタキだ」
「……!」

 私の言いたいことを悟ったらしい。
 ミロは猫の遺体を下に置くとすぐさま駆け出そうとした。
 ……ので、私が足を引っ掛けて転ばせた。
 顔面から土に突っ込んだミロは鼻血を流して私を睨みつける。

「今日はダメだ。明日、教皇の前で完膚なきまでに倒せ」
「何故、明日なのだ!? 俺は今ッ! 今、仇を討ちたいっ!! 邪魔をするなら、カミュ! キサマとて容赦はせんぞっ!!」

 牙を剥いた彼は、確かに男の目だ。
 保護意識など刺激されない、可憐でもない……むしろ、闘争心を煽る、戦士として最高の眼をしている。
 私は未来の戦友に向かって告げた。

「……こらえろ。聖闘士は私闘を禁じられている」
「私闘ではないっ! これは正義のための戦いだ! か弱き者が一方的に嬲り殺されて赦せと言うか!? そんなの……ッ! 断じて認めぬ!! にゃんこのたまちーに誓って! 報いを受けさせてやるっ!! そうさ! 同じようにしてなッ」
「愚か者ッ!!」
「へぼっ!?」

 私は分からず屋の彼の顔面を蹴り上げた。

「へぼっではないっ!! そしてたまちーでもないっ! 正しく覚えろ、タマシーだっ!!」

 そして私もしゃがんで相手の胸倉をつかみ、強引に引き寄せた。

「明日、正式な場でヤツを叩きのめせ。……同じようにしてはならん」
「……何故だ」
「それがヤツにとって好都合だからだ」
「……なんだと……まさか……」
「そうだ」

 私はうなずいた。
 ヤツがもう一つ、狙っているとしたら、対戦相手の心をあらかじめ挫いて動揺させること。
 そして私闘を挑んでくれば、即座に失格。

「ヤツはサガの言う、えむとかいう種族なのかっ!?」
「……むっ!? ぜんげんてっかい! それは違うぞ、ミロよ!!」

 虐められて喜ぶ種族がいることは私も小耳に挟んだことがあるが、恐らく相手はそういった手合いではない。
 というか絶対にソレは都市伝説だ。
 だって痛いのに嬉しい生き物など生物としておかしいではないか。

「お前が試合前に私闘を演じれば、相手の思う壺と何故わからん?!」
「それでもいい! 俺は間違っていない!!」
「私は嫌だ!!」

 最初に可愛いなどと思っていた心はもはや微塵もなく、私は再び鉄拳を見舞った。

「……むぅ!? 何故、ボカスカと殴るのだっ!? 痛いではないかっ!! いい加減、泣くぞ!?」
「うるさい、既にベそかいているではないか馬鹿者めが!」
「はぅおっ!? 怒るなっ、怖いわっ!!」

 もう一度手を振り上げたら、頭を抱えて丸まってしまった。

「よいか、私はアクエリアスになる。そのとき、隣に立っているのがアイツでは納得がゆかん」

 防御した両腕の隙間から、そっと青い眼が覗いた。

「私の背中はお前に預ける。お前の背中は私に任せろ。そのためにはお前が金色の聖衣を纏っておらねばならぬ。……わかるか?」
「……うん」
「よし、ならば、墓を作ろう。一緒に。今、優先すべきことはそれだ」
「……うんっ、うんっ。う……」

 また、ミロが泣き出してしまった。
 頭を抱えたまま。
 私が木の根元に衝撃派で穴を開けるとミロがそこへにゃ……猫の親子の遺体を丁寧に眠らせた。
 二人で土を被せていたら、私も我慢しきれず泣いてしまった。
 だって……。
 だって、猫が……あんなに温かくて軟らかくて……可愛かった猫が……土に埋もれて見えなくなっていくんだもの。

「……ごぇんなさい、猫、ごぇんなざい……仲良くしてごぇんなさいっ。俺のせいでごぇなんざいぃ~っ」
「ミロ、ヨダレ垂れてる、汚い……」

 それに、ミロが謝りながら泣くんだもの。

「黄金聖闘士になったら、アイツラ、うんと冷遇してやれ」
「うんっ」
「精神的に追い詰めた方が効くぞ」
「うんっ。上から虐めて虐めて虐め抜いて、自殺にまで追い込めばいいよねっ」
「……そこまでは言ってない……」

 ……怖いぞ、蠍座の男……

 

 


 かくて私たちは、予定通り、金色の聖衣を授かることになる。

「仲良くするなら、やはりちょっとやそっとでは死なない強いヤツでないといかぬな」

 出会ったときのように人懐こい笑顔でミロが私の腕に引っ付いてきた。

「さもなくれば、どんなことがあっても守れるように手元に置いておかねばならんということだな」

 人が苦手な私は、くっつかれるのも苦手で……心拍数が急上昇。

「……と、ところでミロは何故、私の名を?」
「うん? あのな、あの日、サガから聞いてたんだ」
「赤い髪のお友達がくるよって。おんなじ黄金になるんだから、仲良くしないといけないよって」
「……そ、そうか」
「で、見たことない顔で見たことない赤い髪だったから、ああ、コレがサガが言ってたカミュかってすぐわかったんだ。優しそうだったし、キレイなコだったし、すぐトモダチになれそうだったから、嬉しくなって声かけたの」
「ふ、ふぅん。で、ではキミの目は節穴ということだな。私は優しくなどないっ」

 別にそんなコト言われて嬉しいわけではないぞっ。
 ニヤけてなんかいないっ。
 モジモジしてもいないんだからなっ!

「うん……すぐぶつ……コワイ。優しくなかった」
「……ぶ、ぶたないよ、もう……」
「ホント?」
「……たぶん……」
「……!!」

 顔を引きつらせてミロが後ずさる。

「い、いや、素直に私の言うことを聞いていればっ!」
「……やっぱりぶつ気満々だっ!!」
「チガウよ、ぶたないよっ」

 私に初めてのトモダチができた。
 ちょっと……えと……可愛い……友達だ。
 私は相変わらず、人が苦手で、このコはその中でも一番苦手だったが、いつまでもくっついていたいと思った。
 それから……
 サガとアイオリアとデスマスクも苦手だった。
 ミロは私といても彼らを見るとそっちに走って行ってしまうから。
 だから私は、足を引っ掛けていつも転ばせてやるのだ。

「……うわぁんっ! カミュがぁ~!!」
「私は何もしていない。キミが勝手に私の足に突っかかって転んだんだからな♪」

 簡単にべそかく勇敢なキミに手を差し伸べながら、私は笑うのだ。

 

 

ストロベリーキャンドル(クリムソンクローバー):素朴な愛らしさ、人知れぬ恋、胸に灯をともす、私を思い出して

 

 


[台無しオマケ]
10年後。
「そういえばカミュ、子供の頃、俺は海賊王になるってハリキッてたことあったよな」
「……そんな覚えはないのだが?」
「いや、言ったよ。猫の事件覚えてる?」
「ああ、もちろん」
「そのとき、カッコよく宣言したじゃん。俺は海賊王になるって」
「…………ナイナイ。言ってない。絶対に……」
「いいや、言いました!」
「言ってません!」
「言った!」
「そんな恥ずかしい記憶改ざんするな」
「なんだよ、恥ずかしいって。あのとき、俺がどれほどお前をカッコイイって思ったことか……」
「……?! じゃ、じゃあ言ったかも……」

 

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