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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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ローズゼラニウム


リアミロ短編。誕生花の花言葉をテーマにした第1弾です。
8月16日の誕生花はローズゼラニウム。他にもありますが、それはまたいずれ。
内容はリアの幼い片思いで。


初恋は実らないという。

 あまりにも近くにい過ぎた為に、気持ちに気づくのが遅れてしまうからだろうか。
 いつも、一緒だった。それこそ四六時中。
 幸福だった、幼い日も。
 不名誉な形で兄を失い、周囲からの風当たりが強くなった辛い日々も。
 名誉を取り戻そうと我武者羅に突っ走っていた日も。
 お前はいつも傍らにいてくれた。
 変わらぬ笑顔と共に。
 俺の隣にはいつもお前がいるのが当然だと思い上がっていられたのは、いつまでだったろうか。
 あっさりと。
 実に鮮やかに。
 絶対だと思い込んでいた俺の居場所を、ある日、炎色の髪と瞳を持ちながら、絶対零度の領域で他人を拒むあの男が掻っ攫って行った。
 無口で無表情で何を考えているのかわからない。
 人を見下したような、情のこもらないあの視線。
 幼馴染が、ヤツのどこに惹かれたのか、わからなかった。
 けれど確実に俺との距離が開いて、向こうとの距離が縮まっていると感じて怖かった。
 俺だけの味方でいて欲しかった。
 逆賊の弟となり、これまで好意的だった者たちが去っていく中で、お前は俺の味方であり続けた。
 俺が陰口を叩かれていれば、わざと目立つように俺の手を握って周囲に親愛を示した。
 集団暴力に見舞われると必ず、加勢に駆けつけて……当の俺より怒り狂って暴れ、相手を再起不能直前にまで追い詰め、牢獄行き。
 小さな問題を大問題に発展させる天才だったが、味方のいない俺にとってどれだけ救いだったかしれない。
 人懐こくて誰にでも笑顔を振りまくアイツは、一見、世渡り上手の可愛がられ上手に見えてその実、とても不器用だ。
 普段は大らかだが、同時に他人のため、激しい感情を露にする激情家。
 実直を地で行く、義の男。
 似た者同士だと俺とヤツはよく周囲から一まとめにされるが、俺は違うと思う。
 似ているのは、表面上だけだ。
 兄のこと、汚名を雪ぐ……俺はいつだって、自分のことばかりだった。
 生きるのに必死で、視野が狭くて、相手のことなんて考える余裕もなくて。
 俺が孤立すれば、俺に組するアイツも孤立してしまうのに。
 なのに、それが嬉しかったんだ。
 俺だけの特別である証明のようで。
 皆から人気の子を独占できるような、ちょっと得意な気分になっていた。
 まだ気軽に手を繋ぐことが許される年齢のうちに気がつけば良かったのだ。
 真っ直ぐ過ぎて、全てに全力投球してしまう、不器用者のあのコが好きだったのだと。

(そうしたら……何かが変わっていたのかな)

 奥底に芽生えていたその感情が何だったのか、気がつく頃には、とうに奪われた後だった。
 俺と同じように、他人を信じることが出来ないと主張する暗い眼をした氷の貴公子。
 孤独な人間を放っておくことができない性分のアイツは、燃える髪のそいつにも手を差し伸べる。
 正反対のタイプで反発しあうと思っていたのに、二人はまるで引き合う磁石のようにピタリと収まった。
 急速に距離を縮めた二人は、……美しかった。
 俺と一緒にいるときは、幼いやんちゃボウズに見えていた幼馴染は、相手が変わると途端に華やいだ雰囲気を背負う。
 あんなにキレイだったろうか、あの子は。
 並ぶ人間が違うだけでこんなにも印象が変わるなんて。
 月光のようなカミュと日の光のようなミロと。
 俺に向ける笑顔は何一つ変わっていないはずなのに、途方もなく距離が開いてゆくように感じる。
 二人は太陽と月。二人で一対。
 アイツの隣には、もはや俺ではなく……
 短かった髪が伸び、しなやかに手足が伸び、歳を重ねる度に美しく成長してゆくキミは、輝くばかりの12歳。
 明らかに周りの反応も変化してきている。
 柔らかそうな金の巻き毛が風になびく度、それを手で押さえて目を細める度、誰かがそっと振り向く。
 今や俺もそんな中の一人に過ぎない。
 見ているだけで、想うだけで……胸が軋んで痛む。
 年齢と共に手を繋ぐこともなくなり、頬を寄せ合うこともなくなる。
 顔を合わせても、隣に赤い瞳があるだけで俺は言うべき言葉を失ってしまう。
 そうやって深まってゆく溝。
 その柔らかい金色の髪に触れることも今はままならず。

「……なぁ、ミロ」
「なに?」
「キスを……したこと、あるか?」

 任務から戻った俺が報告を済ませて教皇の間から降りてきたときだ。
 宝瓶宮を通過するときにそんな会話が耳に飛び込んできた。
 はっと息を呑む。

「な、ない」
「そうか。奇遇だな。私もナイ」
「奇遇て……あっ、でも頬とか額ならあるぞ。サガとかアフロディーテがしてくれた♪ デスやシュラにもねだったけど、ほっぺたつねくられただけだった。あと猫のブッチーとぉ、犬の……」
「……それらはカウントしない」
「あそ、ならナイ」
「そうか……なら、試してみるか」

 ……何を言っているんだ、何を?
 声の主はわかりきっている。
 ミロとカミュ。
 凍りついたように俺はその場に立ち尽くした。

「は? 試してみるかって……」
「実験」

 立ち聞きはいけない。
 そう思いながらも足が動いてくれない。

「実験てなんだっ!? バッ、バッカか、キサマ!! キ、キ、キスはっ、す、好きな人とするモンなんだぞっ!! 実験とかでするモンじゃないんだからっ!」
「……お前は私がキライか?」
「ナニソレ。ズルイ聞き方」
「……では言い直そう。お前は私が……」

 だんっ!

 静かに、気づかれないよう。
 二人の邪魔をしないよう、立ち去るつもりだった。
 本当に。
 けど、できなかった。
 床を蹴りつけた音が大きく反響する。

「うわっ!?」

 ミロは大袈裟なほど驚いた声を上げ、柱の影から顔を覗かせた。
 俺の姿を認めると真っ赤になって、カミュの頭を引っぱたいた。

「ア、アイオリアッ、今帰りか?」
「……ああ」
「おつかれ」
「……うん」
「今の……あのっ、カミュがっ、ふざけてただけでっ……実験とか変なことすぐコイツっ! ……もうっ! ばかっ! ばかっ!! カミュのばかっ!! ばかカミュ!!」
「いたっ、いたたっ。よせ。よさぬか、ミロよ」
「うるさい、うるさいっ!!」

 言い訳を並べ立ててカミュの頭を叩き続けるミロは完全にテンパッていた。
 しかし、抵抗せずに叩かれっぱなしのカミュは……俺の気のせいだろうか……何だか……鋭い眼で俺を睨んでいるように思えた。
 邪魔されたと思ったのだろうか。それにしては……

(俺が、居たことを知っていた?)

「……ごめん、何の話だ? 俺、今来たトコだったから……」
「そ、そか。いや、聞こえてなかったならいいんだ」

 しらばっくれて、軽く手をあげるとそのまま宝瓶宮を後にした。
 明らかに安堵した様子のミロにちくりと胸が痛む。
 隠し事……されたんだ。

(あの後……したのかな、……キス)

 12歳でまだ早いよ。
 それに男の子同士じゃないか、何考えてんだ、まったく。
 カミュの考えていることはやっぱりわからない。
 どういうつもりなんだ。
 なんてグルグル考えながら、階段を下る。
 同い年だけれど俺たちより少々、成長が早くて大人びた外見のカミュとやや発育の遅いミロの、拙い口付けの場面を想像して頭を振った。
 違和感がなさ過ぎて、まるで美しい神話の一場面を描いた絵画のように思えてしまう。
 全力疾走して自分の宮にたどり着くとまだ日も高いというのにベッドに潜り込んだ。

(もし……俺となら、どうだろう?)

 カミュを消して、そこに自分を当てはめてみたら……?

(……できない)

 ダメだった。
 想像もつかない。

(カミュとアイツならすぐに思い浮かぶのに)

 もう、届かないのかな。
 あの日に戻りたい。





 数日後。
 カミュが聖闘士育成のため、東シベリアに派遣されたことを知る。
 年に数回の報告以外、何年もこの聖域に戻ることはないという。
 ミロに強請ったキスは、お別れのつもりだったのだろうか。
 カミュが遠くに行ってしまったことで、ほっとしている自分を醜い、と思った。
 きっとミロは落胆しているだろう。
 かつての俺とミロのようにそれこそ四六時中、一緒にいたのだから。

(今、慰めたら……俺のところに戻ってきてくれるかな?)

 ……なんて。
 卑怯なことも考えたりした。
 でも、しなかった。
 できなかった。
 その涙を止めることができなかったら……
 俺ではダメなのだと現実を突きつけられたら……
 そう考えると怖かった。




■□■




「お? アイオリアっ!」

 聖域から外界への境界あたりで、珍しく、一人で歩いているミロを見かけた。
 最強の笑顔を携えて、ミロは俺を目指して駆けてくる。
 あまり、カミュがいなくなったダメージを感じられないが、昔からコイツは自分の弱みを見せたがるやつじゃないから、こんなものかもしれない。

「最近、つれないな。あんま遊んでくんないじゃないか。あ、はい、これ、リンゴ。外のおばちゃんにもらった」

 乾いた道を歩きながら、両手に抱えたリンゴを差し出してくる。

「つれないって……だってお前には……」
「ん?」
「いや、何でもない。それよりミロ、お前は……これからも……その……」

 俺の味方でいてくれるだろうか?

「これからも? ……ああ、うん! おばちゃんトコのリンゴ、来年も再来年も手伝う!! だってご褒美にこんないっぱいくれるモンなっ♪ リアもくれば良かったのに。アップルパイまで焼いてくれたんだぞっ。おばちゃんマジ太っ腹!! ……ホントにおなかデッカイけどなっ。ププーッ」

 失礼にも恰幅のいい老婦人の体型を樽みたいだと笑うミロは、幼かった頃と何ら変わりない。
 聖域に近い農村の、見知らぬ老夫婦に懐いて気まぐれに手伝いに行っている。
 自身が成長して周囲の見る目が変わっても、本人には無関係。

「俺、おばちゃん超大スキッvV」
「……俺……俺も……」

 お前が……

「……好きだ」

 言って、俺は走りだした。

「どうした、いきなり走っ……あぁっ、リンゴがっ」

 背後では俺を追いかけようとしたミロがリンゴを落したであろう気配がした。

「置いてくことないじゃんかっ、リンゴ拾うの手伝えーっ! こらーっ!!」

 遠ざかる声。
 意味など通じなかっただろう。でもそれでいい。
 これが、今の精一杯。



 やがて華奢な少女のようだったミロは、遅い成長期を迎えて少年らしく、逞しく、そして男らしく育ってゆく。
 けれど美しさは褪せるどころか増してゆくばかり。
 その煌きで俺の心に細かく傷をつけながら。




ローズゼラニウム:選択、恋わずらい 

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