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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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オペラ座の怪人:1

人目を避けて隠れて生きるカノンてば、オペラ座の怪人じゃね!?と唐突に思ってみました☆
ラストとか全く考えていないのにいきなり見切り発進してしまったので、かなり心配ですが;
基本カノミロですが、展開によってはもしかしたら、黒サガミロとかサガカノ要素もあるかも……;
苦手な方は、お逃げ下さい(爆)





 兄の話に聞くだけの、本で読むだけの、外の世界に憧れた。
 生れ落ちた瞬間から、無き者として扱われたこの俺に与えられた世界は、暗く冷たい宮殿の中のみ。
 人目に触れることなく、ただ闇に生きろと宿命付けられた呪われし双子の片割れ。
 ……どうして俺なのだ。
 同じ顔、同じ声で同じ年齢のサガは大手を振って自由に生きられるというのに。


「で、カミュとミロが珍しくケンカしてな、理由、なんだと思う? これがおかしいのなんのって。なんでちっちゃい子ってああなんだろうなぁ。もぅ可愛いんだ、やることなすこと……って、聞いているか、カノン?」
「……きーてるよ」

 子供なんか、好きじゃなかった。
 特に愛されることを当然のように思っているような子供には腹が立つ。
 だから、サガの話を聞いていてもちっと面白くなんてなかった。
 いいな、その可愛い子たちを俺も構ってみたいな。
 ……なんて、とてもじゃないが思えるわけもない。

 ところが。

 ガキンチョが面白い生き物だと知る機会を得た。
 俺が双児宮の柱にもたれて本を読んでいたときだ。
 人の気配を感じて柱の陰に身を潜めていると、そいつがやってきた。
 そろりそろりと忍び足で、首を突き出して、真剣な眼差しで。

「……だぁれ?」

 長めの金髪。クセ毛。猫科を思わせる顔立ち。
 コレは“ミロ”だな。

「サガ?」

 俺が隠れている柱までそっとやってきて、覗き込んでくる。
 俺は姿が見えないように少し、移動する。

「ねぇ、誰?」

 移動した俺を追って、チビはさらに柱を回る。
 俺もまた逃げるように柱を回る。
 そしてしばらく。

「待って、ねぇ」

 くるり、くるり。

「どうして逃げんの?」

 くるり、くるり。

「……あれぇ? いなくなっちゃった??」

 一本の柱を中心にクルクルと逃げて追って。
 小さいケツを突き出して、一生懸命に柱の向こうを覗き込んでいる後姿を今、俺は見ている。
 そう、追われている方が自分の真後ろに来ていることをチビは気づいていない。

「う~っ、どこ行ったぁ!?」

 またクルリ、クルクル。

「逃げるなんてヒキョーだっ! 出て来いっ!! 出てきてこのミロと遊べっ」

 小規模な追跡劇が始まる。

(ヤバイ……ウケる……! あのケツ、蹴り上げてぇ)

 笑いを堪えるのが辛くなってきた。
 バカだ。
 バカ過ぎる。
 なんだよ、このコロコロした生き物は?!
 手足短いっての。
 姿を見られるワケにはいかない俺だったが、つい。
 ついウッカリ、欲望のままにケツを蹴飛ばしてしまった。
 ま、どうせサガのフリすりゃそれで済む。

「ふぎっ!?」

 チビは見事なまでに飛び上がり、想像通りの反応で床に転がった。

「ぶっははははは!!!」

 指差して笑い転げる俺に振り返ったチビがケツをさすりながら抗議してくる。

「コラッ! メでしょっ!! おしりけったらダメッ!!」
「ははは」

 チビは俺の背後に回り、仕返しに俺を蹴ろうとしてくるが、足が短くて届いていない。

「えいっ! えいっ!!」
「ムリムリ♪」
「むぅ。これならどーだっ!」

 おっ。ジャンプしやがった。
 幼児のクセになかなかの蹴りだ。
 が、しかし。所詮は幼児。
 足首をつかんでブラ下げる。

「はうあっ!?」
「~♪」

 そんでもって、ぶんぐる振り回す。

「キャーっ!! ……おもろし~いっ☆」

 最初は驚いて慌てたチビっ子は、すぐに慣れて喜んで振り回されている。
 さてはコイツ、Mだな?
 途中で手を離して放ったが、猫の身のこなしで着地しやがった。
 伊達に幼児で黄金じゃないな。そら恐ろしいガキだ。

「もっとやって、もっとやって、サガー♪」

 飛びついてきたチビは、俺をサガと呼んだ後、一度首をかしげて考え込み、もう一度見上げてきた。
「……オマエ、誰だ?」

 ……げ。やべ。
 コイツ、いい勘してやがる。

「何を言っているんだ? サガに決まっているじゃないか」

 精一杯、優しい作り笑いをして兄のフリをしてみたが、チビは俺を指して「ウソだ!」と叫ぶ。

「困ったな。どうして信じてくれないんだい?」

 優しい声色を使い、頭をなでて抱き上げる。
 見破られるはずなどないさ。
 俺の存在は誰も知らない。

「だってなんか違うもん」
「どこが?」
「んー……どこかなぁ?」

 俺に顔を近づけて、小さな手でペタペタと触ってきた。
 眉毛を触り、髪を引っ張り、頬を引っ張り、瞼を引っ張り、下唇をつまんでのばす。

「ヲイ……」
「わかんない」
「だから、サガだよ」
「サガじゃない!」
「サガだってば」
「ちがうっ」

 困った俺は、諦めて別の嘘をつく。

「フハハハハ。よくぞ見破ったな。俺はサガではない! サガに化けている、鏡の世界に住む悪霊だ」
「鏡!? すごいっ!!」

 怖がるどころかチビは興味津々で目を輝かせる。

「なぁなぁ、俺にも化けられる?」

 え……!?
 いや、それはその……

「それは……だな、ええと……俺は双児宮のお化けだから、双児宮の主の姿にしかなれないのだ」
「ふぅん。なーんだ、つまんないの」

 ぐっ……このクソガキ。

「さ、もういいだろ。帰れ」
「なんで? 遊ぼうよぅ」
「もう夕方だ。子供は帰る時間」
「ミロ、子供じゃないよ! もう5歳じゃないし、来年、7歳になるんだ」

 ……その子供じゃないラインの基準はどこからきた!?

「たぶんそろそろオトナだと思うんだ。字も書けるし、本だって読めるんだからなっ! フッフーン♪」

 オマエがオトナだとすると俺は既にジイサンの領域だぞ、オイ。
 誇らしく胸をそらすチビッ子に目線を落す。
 じわじわと笑いが込み上げてきて、思わず両手で口を覆った。
 ヤバイ……アホの子だ。
 これは確かにサガが面白がるワケだ。
 相手にしていると疲れるが、愉快ではある。

「いいから帰れって。俺も鏡の世界に戻らなくちゃいけない時間なんだ」
「えー、そうなの? じゃあ、明日も来るから、トモダチになろうっ」
「来なくていい」
「ヤダ。来る」


■□■



 そうしてチビっ子は、毎日、“双児宮のお化け”に会いに来るようになった。
 お菓子を持って、スケッチブックを持って、パズルを持って。

「なんで俺んトコくんだよ、毎日。うっとーしーな」
「だって楽しいもん♪」

 俺がお化けを名乗ったから、チビスケは素直に俺を“ファントム”と呼んだ。

「俺なんかより、同い年のトモダチといた方がいいんじゃないのか?」
「他のヤツラとはいつでも遊べるけど、ファントムはこの時間しかいないじゃんか」

 持て余した莫大な時間を一人でひたすら無駄に消費していた俺には、ガキの相手といえどちょうどいい退屈しのぎになった。
 本も読み飽きてきた頃だ。

「今日はミロが本を読んであげるぞ、喜べ!」
「あー、ウレシー……」

 サガの部屋で俺が胡坐を組んで座っているそこに当たり前の権利がごとく尻を落すミロ。
 たどたどしく持って来たお気に入りの本を読み、途中からわからなくなってしまったのか黙ってしまったから、続きは俺が読んでやった。
 ヤツは喜んで、何度でも同じ話を強請る。
 ヤツは俺の作り話にも大いに関心を示してきた。

「うぉっ!? また負けた」
「リバーシは隅の四つ角を先に取ったモン勝ちなんだよ。ほれ、やってみ?」

 子供は呑み込みが早いというが、ゲームをやらせてみたらあっという間に覚えた。
 チェスやイゴ、ショーギなども教え、俺の相手が早くできるように様々な勝ち方を伝授する。



■□■



「勝てた! リバーシ、初めてカミュに勝てたよ、ファントム!!」
「よし、やったな」

 チビが走ってきて俺に抱きつき、マシュマロみたいな頬をすり寄せてきた。
 柔らかくて、温かい。
 この感触は嫌いじゃない。

「いいか、毎日言うが、絶対に俺のことは誰にも話してはいけないぞ? 仲良しのカミュにもアイオリアにも。もちろん、オマエの大好きなサガにも、だ」
「うん。でもどうして? 皆で遊んだ方が楽しいぞ?」
「……んー……鏡の世界には掟があってだな、人に知られてはいけないことになっているんだ」
「知られるとどうなるの?」
「鏡の世界から出てこれなくなる」
「それは大変っ!! 一緒に遊べなくなっちゃう!!」
「だろ? だからナイショだぞ? 守れるな?」
「うんっ! うんっ!!」
「もし誰かに見つかった場合、サガだと言い通せ」
「わかった!」

 チビは何度も頷いて約束すると誓った。
 この俺が鏡の住人だとまるきり信じ込んで、疑いもしない。
 サガとの違いを人目で見破ったくせにこんな子供だましのウソに引っ掛かる。

(ま、子供なんだが……)

 今は俺の膝の上で寝息を立てている、小さな生き物の頭をなでた。

「すっげやーらけー」

 くるりと巻いた髪も、滑らかな頬も。

「ぷっくりほっぺしやがって…………お菓子みたいなヤツ」

 なんだか、かじってみたくなる。
 甘い味とかするのかな? ハチミツみたいな?

「ははっ、まさかな」

 なんて言いながら、ぱくっと小さい手を口に入れてみた。

「ん~……むしろちょっとしょっぱい」

 当たり前だが、ハチミツ味もマシュマロ味もしなかった。
 強いて言うなら、しっとり塩味? ……むしろ、汗味?

「はは……ははははははっ。当たり前だろ」

 自分のしでかした馬鹿げた行動が可笑しかった。
 ……穏やかだ……変な気持ち。
 今までに感じたことのない……………………どこかこう……温かくなるような。

「ふわぁ~……」

 なんか気持ちが良くて俺まで眠くなってきた。
 トロンと重くなった瞼をこすったそのとき、脳天に電撃が走る。

「何をしているんだ、カノンッ!?」
「ほへ?」
「ほへじゃない!」

 仁王立ちして俺を見下ろしていたのは、双子の兄だった。

「ソレだ、ソレ!」

 兄が指し示すのは、胡坐のくぼみで眠っているチビスケ。

「バレていまいな!?」
「騒ぐなよ、目を覚ますぞ」
「……返しなさいっ!」
「あっ」

 サガは俺の足の間にあったチビを取り上げた。

「……なんだよ、そんなに睨むなよ」

 それにさ、貸せじゃなくて返せ、だって。
 そのガキはアンタの弟でも子供でもないだろうに。

「まったく…………あっ、ミロ、起きたのか? んん、何でもない。寝てていいぞ?」

 今の今まで刺々しくしていた兄は、チビが目を覚ましかけると急に気色悪い猫なで声で寝かしつけ、片手ではシッシッと追い払うように、俺に合図する。
 ……チェッ。
 つまんねーの。
 別にチビを盗られたとかそんなことを思っているわけじゃないけどさ。
 だが言っておくが、ソイツはサガにじゃなくて俺に会いに来たんだからな!

「もうミロに構うな。子供は時に大人よりも敏感だ。お前の正体に気づくかもしれん」

 チビを八番目の宮に置いてきたサガは俺に言った。

「平気だって」
「とにかく、アレにはもう近づかないようにっ!」
「向こうからくるんだから……」
「これまで通り居留守使っておけ」
「ムッ、なんだよソレ!? はっはーん。わかったぞ」

 俺が目を細めると兄は不機嫌に片眉を跳ね上げた。

「なにがわかったと?」
「アンタ、自分より俺に懐いたから、腹立ててんだろ!?」
「そんなワケあるかっ!!」
「傲慢なアンタはそうやって、全てを手中に収めて管理していないと満足できないんだっ!! 自分の知らない所で自分の知った者同士がいかなる関係であれ、接触するのを好く思わないんだろう? たかだか幼子一人の遊び相手にも目を光らせていなければならないとは、ごくろうなことだ!」

 俺は知っている。
 神の化身とも囁かれる兄の正体を。
 俺の存在を知る聖域の老人共から邪悪の塊だと言われる俺なんかよりもずっと深い闇を心に飼っていることを。
 正しくあろうとすればするほど、抑圧された悪の芽は膨らんでいく。

「……なんだと!? この……ッ」
「殴るか? 俺を? ハハッ、図星だからだろ」
「黙れ! そんな矮小な考えはお前の中だけだっ!!」

 本人が自覚しているかどうかは知らないが、こうして激昂し俺を殴り飛ばしている行動が肯定しているようなものだ。
 その隠しきれない独占欲、支配欲は俺以上だと。
 実弟も、可愛い子供たちの関心も、聖闘士たちからの尊敬も、全ての称賛が自分に向けられていなければ気が済まない男なのだ。
 災いを招く凶星を背負って生まれたのは俺なんかじゃない!
 業深きこの男だ。
 兄こそが、災いの星だ。


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