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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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我輩は、サガニャンである!

 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 大きさは、90cm。
 ショーケースのセンターを陣取っている、絶対的エースである!



「ママー、あれ買ってー」

 通りに面したショーケースのガラスに顔をつけて、子供が言った。
 そら早速、来たぞ!
 我輩を家族に加えたがっている、あのあどけない瞳!
 見ている!
 我輩を見ている!!
 ……と、思ったのだ、が……。
 買われていったのは、我輩の隣に飾られているヤツだった。
 ふむ。
 まぁ、そういうこともある。
 我輩はちょっと高値だからな。
 致し方ない。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 触り心地抜群! 子供のハートを鷲づかみするなんてワケない!
 新参者のぬいぐるみが入ってきて、ちょっとショーケースのセンターからズレてしまったが。

「パパ、あの子が欲しい」

 通りに面したショーケースのガラスに顔をつけて、子供が言った。
 来た来た! 我輩に目をつけるとはなかなか見所のある少女だ。
 だが、買われていったのは、我輩の後にセンターを担ったヤツだった。
 ……ま、アイツも結構、子供ウケしそうなタイプだったからな。
 あばよ。幸せになるんだぜ?



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 抱き心地だって抜群! ぎゅっと抱っこして寝れば、たちまち夢心地になる。
 またも新入りが入ってきて、ショーケースの端に移動することになった。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 新発売がどんどん入ってきて、ある日、我輩は外から見えるガラスのショーケースから下ろされた。
 しかしいつまでもあそこに飾られていたのでは、日焼けしてたまらん。
 我輩のイカス毛並みが悪くなってしまうからな。
 店内の棚に移動した我輩だが、さすがに店主はわかっている。
 一番上に配置してくれた。
 ここには我輩と同じように、誕生日かクリスマスでもないとおいそれとは子供の手に入らない、高貴な連中がひしめいている。
 すぐに売れなくてもあせることはない。
 どんと構えていればよいのであーる。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 季節は春から夏、夏から秋。
 そして良い子の皆が待ち望んだ冬がやってきた。
 町はイルミネーションで飾り立てられ、すっかりクリスマスムード。
 我輩たちのいる店内も楽しげな音楽が流れ、ツリーが並べられる。
 この時期は子供たちだけでなく、若い娘さんたちも彼氏にぬいぐるみをねだったりするもの。
 さて。我輩は誰の家に行くのかな?
 キレイなラッピングで包まれるのを心待ちにしよう。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 クリスマス商戦が終わり、次は年末年始の準備だ。
 我輩はまだ一番上の棚にいた。
 もちろん?
 我輩だけでなく、まだ残っている連中は沢山いる。
 別におかしなことじゃあない。
 こんなことだってあるさ。何しろ、親だってそう易々買い与えてやれるようなシロモノではないのだから。
 それに、我輩の置かれた位置がちょっと目立たなかったというのもある。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 冬から春へ。春から夏へ。夏から秋へ……
 我輩がこの店にやってきて、1年が経過した。
 とうとう、値が下げられた。
 10%オフか。
 まぁ、元が高かったから、このくらいは仕方がない。
 それにしても我輩の運命の相手はいつになったら現れるのやら。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 我輩の値が徐々に下がり始めた。
 手に入りやすいようにと店主がきっと子供たちや女性のために気を使ったのであろう。
 可愛らしい女児が我輩を所望するのか。
 それともやんちゃな男児かな? 乱暴はしないでおくれよ?
 ひょっとしたら、ロマンチストな若い女性かもしれないな。
 フリルのついたピンクのカーテン越しに飾られるかもしれない。
 ピアノの上かも?
 そんなことを考えていたら、両隣のヤツが連れて行かれた。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 ……とうとう、半額になってしまった。
 棚も上から二番目でしかも隅においやられてしまった。
 どういうわけだ、おかしいぞ?
 ここまでサービスしていいものなのか、我輩はふわっふわの触り心地抜群の高級ぬいぐるみであるというのに!?

「あっ、これ、安いんじゃね? コレにしろよ」

 若いカップルの男性の方が我輩を指し示した。

「ヤダ、なにそのブサネコ」

 ブ、ブサ!? ……無礼なっ!!

「ていうか、タヌキ? キモいんですけどー」

 ぐ……いくらフェミニストである我輩もしまいには怒るぞ、女!!

「アタシ、こっちのクマちゃんがいいなー」
「えー、マジか。それ高いじゃんかよ」

 ……まったく、最近の若い者は礼儀を知らぬ。
 隣のクマぬいぐるみを取り出す際に我輩を床に落したというのに元に戻しもしないで行ってしまった。
 あのクマスケ……妙なヤツラに選ばれて、不幸なことにならんといいが……
 我輩はもっと温かみのある、優しい子の家に行きたいものだな。

「あっ! ネコちゃん、落ちてる!」

 早速、床に転がった我輩を見つけてくれた幼児がいた。
 我輩を助け起こしてくれ……たはいいが、ちょっと……キミ、手がベトベトだし……店内でアイスクリーム食べたらいかんでしょ。

「ねこちゃん、カワイイねー♪」

 おおぅ。なんとセンスの良い子か。
 しかし、今、鼻をほじったろ。
 その手で我輩をなでてはいかんぞ。
 汚れてしまうではないか。

「何してんの、行くわよ~?」

 母親の呼ぶ声がした。

「ママ、ねこちゃん買って~」
「……ダメ。おうちにいっぱいいるでしょ」

 なかなか見所のある子供だったが、縁がなかった。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだない。
 クリスマスを前に我輩は……我輩は……
 クリスマスセール! 半額以下! と書かれたワゴンに放り込まれてしまった!
 屈辱である。
 こんなはずではなかった。
 にぎやかな通りに面したガラスのショーケース。
 その真ん中に陣取っていた我輩。
 それが年月を重ね、こんなところに……。
 なんと情けないことか。
 だが、これはまだエリートぬいぐるみが転落していくほんの序章に過ぎなかったのである!
 なんと! 半額以下のワゴンに入れられたにも関わらず、我輩は売れ残ってしまったのである!!
 半額以下の謳い文句につられて多くの人間がたかってきたというのに!
 同士が次々と連れられていく中で、我輩はまだ運命の持ち主と巡り会わない。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前はまだ……まだ、ない。
 早く子供の笑顔が見たい。
 名前を呼ばれたい。
 そう願い続けて早、数年。
 自慢の毛色は色褪せ、艶は消え失せ、もはや別のぬいぐるみのようになった我輩。

「どうします、店長、コレ……」
「なんだソレ?」
「ずっと置きっ放しで、もう処分してもいいのかなってずっと思っていたんですけど」

 ワゴンの一番下でひしゃげていた我輩をアルバイト君が取り上げた。
 店長はマジマジと我輩を見て、……タダ同然の90%オフのタグをつけた。

「これで売れなかったら、もう処分だな」
「いや~、いくら値を下げてももう売れないと思いますよ? こんなんなっちゃあ。中古にしか見えませんもん。一応、埃は払っておきますけど」

 ……ヤバイ。
 処分される……
 子供と一緒に遊ぶ夢が叶えられないままに。
 女性の部屋に飾られて、名前をつけられることもなく。
 老人が孫のように可愛がってくれることもなく。
 我輩はゴミと呼ばれてしまうのか。
 無念である。



 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前は、もらえないかもしれない……。
 遠き日の栄光に想いを馳せ、処分される日を指折り数えていると、背の高い少年と幼稚園児くらいの子が現れた。
 ……年の離れた兄弟だろうか。
 小さな子がかつて我輩がいたショーウインドゥに張り付いた。
 あの、大きくてキレイな猫のぬいぐるみに目を奪われているようだが、横に立つ少年は明らかに弟の要求を上手くかわす算段を頭の中で組み立てている顔をしている。
 あのショーウインドゥに飾られるのは、大きくて値の張るぬいぐるみだけだ。
 父親母親が苦い顔をするような物をあんなお兄ちゃんが買ってあげられるはずもない。
 さて、来るぞ、来るぞ。
 買っていや買わないのバトルが勃発だ。
 ……と、思って見ていたが、弟は兄の悩める顔とガラスケースの中のぬいぐるみとを何度も見 比べ、やがてそこから離れて店内に。
 兄はまだ臨戦態勢を解いておらず、財布の中身を確認しながら深刻な表情を浮かべている。
 そんな兄の気持ちを知ってか知らずか、弟は店内を歩き回り、我輩のいるワゴンのところまでやってきた。

「サァガァ~、なんでコレ、おっきいのにここにいるのー?」

 サガと呼ばれたお兄ちゃんがゆっくりと歩いて近づくと我輩のヒゲをつかんで持ち上げた。
 こっ、こら、よせ、ヒゲがちぎれるっ!!
 ダメだぞ、サガお兄ちゃん、我輩をそんな扱いにしては!

「……だいぶ古そうだな。処分品だろう」
「処分……? 捨てられちゃうの?」
「これじゃあ、商品としてはもう価値がないだろうからな。投売りで90%オフなんだろ」
「……ふぅん。じゃあ、このネコにしようかな」
「いいんだぞ、ミロ? そんなに遠慮しなくても。そうだ、アレなんてどうだ?」

 我輩をワゴンの中に放り込むとお兄ちゃんは手頃な値段のぬいぐるみを棚から取って、幼い弟に渡した。

「カワイイッ♪」
「そうだろう? それにしよう、な? 本物のニャンコはあきらめて。十二宮じゃ飼えないから。ぬいぐるみを可愛がってあげような」

 ……まぁ、期待していたわけではないさ。
 同じお金を払うなら、キレイな方がいいに決まっている。
 我輩は、もう……

「俺、やっぱコレにする!」

 ……!!
 ワゴンに戻された我輩の尻尾がいきなりつかまれた。
 そ……そうなのか!? キミが、キミが我輩の求めていた相手なのか!?
 い、いや、まだわからないぞ。
 まちがってつかんだのかも……?!
 それに兄の方は我輩を快く思っていない!!

「ミロ、少しくらい大丈夫なんだから……そんな汚いのをわざわざ選ばなくても……」

 ぐ。あ、兄め! 兄のやせ細った財布事情を察する弟の気持ちに水を差すな!!
 それより我輩が生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ!!

「んーん。コレにするー。なんか、目があった気がした」

 “ミロ”が我輩を抱き上げて顔を覗き込んできた。

「……うん。カワイイ。カワイイよ、このコにする! サガ、買って~♪」

 うおおっ。そうだ、我輩はこの笑顔を待っていたのだ!!
 望まれる喜びを、我輩は今、初めて実感した。

「気に入ったのならいいが……本当にこっちじゃなくていいんだな?」
「うんっ!」
「後からやっぱりさっきのがいいとか言ってもダメなんだからな?」
「へーきっ!」
「じゃあ、買ってあげるから、大事大事にするんだぞ?」
「うん、可愛がる!」
「よし! ……ふぅ、よかった。高いのじゃなくて……」
「ナニ?」
「ナンデモナイ」





 我輩は、猫のぬいぐるみである。
 名前は……

「サ~ガニャンッ♪ エヘヘ~。見て! カミュ! いいでしょ、買ってもらっちゃった」
「……何故、誕生日にわざわざそんな小汚いゴミを買ってもらうのだ? 意味がわからん。もっと役立つ物にすればよかったのに」
「ゴミゆーなっ!! 貸してやんないぞっ」
「……ああ。いらん」
「なにぃ~!!」

 名前は、サガニャン。
 ミロちゃんの好きなお兄ちゃんの名前を戴き、ミロちゃんの5歳の誕生日にやってきた。

「だが買ってもらったというのはいいな。私も自分の誕生日には試しにダダをこねてみるか。……人体模型が欲しいのだ」
「じんたいもけい?」
「いつか手に入れようと思って、名前ももう考えてある」
「なんにするの?」
「“人体模型ジェミニくん”」





[おしまい]

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