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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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お兄ちゃん、大暴走☆

 どうやら。
 弟があのコに惚れてしまったらしい。
 偶然を装って(……いるようだが、あからさまにしか思えない)あのコが通るところにやってきて、大した用もないのに雑談で引き止める。
 その間、片手が腰の辺りや肩の辺り、あるいは相手の手の辺りで迷子している。
 つまり、アレですか。
 腰に手をあてがいたいんですよね?
 肩に手を置いてみたいんですよね?
 手をつなぎたいんですよね?
 でも思い切れなくて、手がウロウロ彷徨って終わってしまうワケだ。
 ……ふぅ。なんとも情けない。

「ミロッ、ミロォ~! 好きだっ! 俺も愛してるぞっ」

 ヤツの部屋のドアを開けてみれば、なんか独りでサカッてるし。

「カノンよ。“も”じゃないだろう、“も”じゃ。正しくは……」
「ギャアア!? 何勝手にヒトん部屋侵入してんだよっ!?」
「ノックしたのに無視するからではないか」
「鍵かけてあったろが!?」
「ん? 鍵? ああ……」

 手の中の、ひしゃげたノブをその辺に放り投げた。




「……オイッ!?」
「開かなかったから、ノブを握りつぶして引き千切ってみた」
「……開かなかったら、普通は諦めるだろ!? なんで壊してまで侵入すんだっ!?」
「だってノックしても無視するから……」
「スタートに戻るな、何の用だっ!?」

 この兄である私に向かって理不尽な怒りを向けながら、愚弟は大事に握りこんでいた、己の息子さんをいそいそとしまいこんだ。

「愚弟よ」
「愚弟ゆーな、愚兄!」
「お前はショタなのか? そうなのか?」
「う……ちがう。相手もすでに大人なのでショタちゃいますわ」
「八つも下でっせ?」
「成人しとります! ……って、何しに来たんだ、今、イイトコだったのにっ!!」

 ……イイトコかどうかは知らないが、空しいぞ、弟よ。

「お前は幸運なことにこの私と瓜二つに生まれついているのだ。そんなお前がフラレるハズがなかろう。さぁ、男らしく告ってくるがよい」
「告……!? かっ……簡単に言うなっ! ミッ……いや、アイツが首を縦に振るわけがなかろうがっ!! そんなことしたら…………口を利いてもくれなく…………ってか、ほっとけっ!! そのうち、自分で勝手になんとかするわっ!!」

 愚弟は口を3の字にしてそっぽを向いてしまった。
 うーむ。しょうのないやつだ。
 これまで兄らしいことは、スニオン岬の水牢に投獄してやったくらいなものだったからな。
 平和になったことだし、ちょっとお兄ちゃん風を吹かせてみるか。
 私はそう思い立ち、天蝎宮へと足を運んだ。

「ミロ。邪魔するぞ」
「お。サガ♪ いらっさー」

 うーん。いい笑顔で出迎えてくれる。
 この子は良い子だ。うむうむ。
 我が弟ながら、趣味が良いな。
 出された紅茶を飲みながら、私は単刀直入に切り出した。

「カノンはどうだ?」
「……は?」

 ……あ。また出た。必殺「は?」。
 「は?」はよしなさい、「は?」は。
 まぁでも、こんなちょっと抜けたところが可愛いというものだが。
 ヨシヨシ。

「な、なんだよぅ」

 撫でてやったら、照れて頬を膨らませるミロ。
 おおお。……あまり子供の頃と変わってないな。大丈夫か、ハタチ。

「我が愚弟が年がら年中サカって、空しいG行為に耽っているので、賢兄としてはお前に弟のダッ○ワイ○にな……ッ!?」
「ギャラクシアンエクスプロージョンッ!! アーンド、時の狭間へ消えろ、ゴールデントライアングルッッ!!!」

 瞬間、目の前がブレて、星々が砕ける様が見えた末に時の涙が見えたり見えなかったりした。


■□■


 数日後、何とか生還した私は愚弟に言った。

「何をするか、人がせっかく小心者のお前の恋を成就させてやろうとしたのに」
「ふざけんなっ!! ○ッチ○イフになってくれって言って頷くヤツがどこにいるっ!? そしてG行為とか余計なコト言いつけなくていいっ!!」
「大丈夫だ。ちゃんと言葉をぼかしたから」
「ボケてねーよっっ!!! 音声で言ったらまんまじゃねーかよっ!? もう帰れっ!! 異次元に帰れッ!!!」

 思ったより、照れ屋さんだな。
 これは道のりは厳しいぞ。
 やはりここは兄がなんとかするところであろうな。
 そうだ。
 双子の特性をいかんなく発揮して、私が愚弟のフリをしてミロとステディな関係になって、途中でバトンタッチすれば解決だな。
 というわけで私はカノンのボロ服を無理やり奪って出かけた。
 抵抗するから、ちょっと痛めつけて気絶させてからだがな。
 パンツは不要なので、返しておいた。
 これでどこから見てもカノンだ! ウワーッハハハハハ!!!



「ミーローちゃんっ♪ あーそーぼっ☆」

 天蠍宮のミロを呼び出し、

「……何事かと思ったら、サガか」
「いや? 見ての通り、カノンだが?」
「いや、カノンは全裸で徘徊したりしない」

 !! おっと、しまった。
 カノンの服を奪ったはいいが、着るのを失念していた。

「着るからちょっと待っててくれ」
「う、うん。着た方がいいな、うん」

 ドアを一度閉じてもらい、外でボロ服を装着すると再びノック。

「カノンです。こんにちは」
「……サガにしか見えないが……まぁ、じゃあ、それでいいよ」
「ところで話は変わるが」
「……唐突だな」
「ヘイ! ベイビー! 俺とデートしようぜぃ☆」

 愚弟はちょいワルアラサーだから、普段はこんなカンジだろうか?

「……サガ……いや、カノン。ソレはどういうキャラのつもりなんだ? ちょっと俺……あの……ついていけな……」
「そんなことはどうでもよい。デートに行くぞ、ミロ」
「……えぇ?! ……こんな状態のサガと? ……面倒クサッ」
「行、く、ぞ?」
「……………………うん……わかった」

 よしよし。素直でいい子だな。
 私の一睨み……いや、アイコンタクトで一発OKだ。

「えっ!? てか、その練習着で外界行くのか?!」
「仕方ない。カノンはいつもこの服だからな」
「ダメでしょ。一般的な服着てくんないと隣歩きたくない」

 ……ワガママだなぁ。
 仕方ない。子供のワガママにお兄さんは弱いのだ。
 その場で脱いで、

「……あのさ、なんでいつも下着つけないワケ?」
「穿くわけがない」
「……だから何故……」
「ミロの服を貸しなさい」
「……ううん、いいよ。あげるから。返さないでいいから」
「気前がいいな」
「ノーパンで穿くズボンとか返されてもなんか嫌だし……」

 着てみたら、上着はいいけど、下がなんだか窮屈だな。
 試しに膝を曲げ伸ばししていたら、ビッ!と音がして、尻の部分が裂けた。
 パンツを穿いていないので、肌色丸出しだったが、まぁ、このくらい見えても問題あるまい。

「さて。手をつなごうか♪」
「い、嫌だ。子供じゃあるまいし、みっともない」
「子供ではない。恋人つなぎだ」
「……なおさら嫌なんだが……」

 手をつかんだら、照れたのか振りほどこうとするから……
 ゴキッ……ゴキゴキ……ッ!

「のぅわっ!? いだだだっ!? はい、つなぎます、つながせていただきますっ!!!」

 握力には自信があるのだ。逃がさんぞ。フハハハハ。

「さて。デートスポットというと日本の恐山とかそんなところか?」
「……いきなり海外旅行とかしないと思うし、恐山はデートスポットじゃないと思うんだ、俺……」
「そうか、ミロは物知りだな。じゃあ恐山で決まりだ!」
「いやいやいやいやっ!? 話聞いてた、サガ!?」
「サガではないぞ、ミロよ? カノンぜ?」
「“ぜ?”って言われても……いや、あの……」
「……俺の名前を言ってみろ」

 某北斗の拳の某北斗四兄弟の某三男チックに言ってみたら、ノリのいいミロは、ちゃんと答えてくれた。

「……かのんさんです……」
「はい、正解☆ 賢いなぁ、ミロはぁ」
「ドウモ……」
「じゃあ恐山に……」
「ま、待って! おっ、俺、映画とかがいいなぁっ!!!」

 うん? そうか。そういや、デートでお決まりコースでもあるな。

「よし。お前の意見を尊重しよう。だが……」

 私は優しい笑顔でミロの肩に手を置いた。

「暗がりに乗じてこのサガ……いや、カノンから逃げようなどと思うなぜ?」
「………………は……はぃ……」

 この後、急に無口になってしまったが、どうしたのかな? クククク……

「ではこの“恐怖の心霊スポット☆恐ろしい山、恐山”を視ようか」
「ナニ、そのタイトル? 主演がデスマスクってなっているのが非常に気になるんだけど……ていうか、もう恐山から離れよう?」
「デートでホラーは必須だと聞いたぜ」
「誰に!?」
「シャカにぜ」
「そ、それは信じない方が……」
「相手がキャーッと怖がって抱きついてくるから、距離が縮まるとか何とか言っていたのだが、実に理にかなっているではないか」
「俺、キャーとか言わないし。抱きつかないし。そんなに怖がりじゃないし。理にかなっているという割りにシャカ、彼女がいるとか一度も聞いたことないし……」

 そんなことを言うミロだったが、怖くて視たくないだけだと見抜いた私は首根っこをつかんで連れ込んだ。

「「キャー!!!」」

 ……結果。
 二人で抱き合って失神。
 担架で休憩室に運ばれた。

「少し刺激が強過ぎたようだな」

 映画の内容を語り合うべく、カフェに入ったものの、冒頭で気を失ったので語るところもなかった。

「仕方ないな。まだ早いが、ホテルに行くか」
「ホテル?!」
「デートのラストは恋人たちの甘い夜に決まっているのぜ」
「……甘い夜ったって……まだ昼の2時ですけども……? そして俺には誰と誰が恋人同士なのかさっぱり……は……はは……」

 ……初めての経験なのだな、ミロよ?
 ガタガタと震えているではないか。
 そんなに怯えなくてもよいのだぞ。
 経験豊富なこのカノンに見せかけたサガが、ごん太なアレでエリシオンまで導いてやるからな!

「たっ、たっ……助けて、カミューッッ!!! 殺されるーッッ!!!」

 あっ! 逃げた!?
 待て! 逃走など許さん!!
 店を出て、街を爆走。
 背後で車同士がぶつかったり、悲鳴が上がったり、色々あったが気にする暇などない。
 何しろ相手はスピードが売りの黄金聖闘士!
 私も本気を出さねばなるまい!!
 ……むっ!? このまま真っ直ぐに突き進めば海!
 そ、そうか! ミロの狙いがわかったぞ!
 ふふっ。可愛いヤツめ!
 砂浜でウフフ、追いついていらっさぁ~い♪ 待て待て、こいつぅ~♪……というのがやりたかったのだな!?
 それならそうと一言、言ってくれれば。

「ウワーッハハハハハ! 待て待て、コォイィツゥゥゥウゥウゥ!!!」
「う、うわぁぁぁぁ!!! コエェエェェェェ!!!!」

 チラリとこちらを振り向いたミロがさらにスピードアップした。
 あっ!? コラッ! ま、待ちなさい、マジで待ちなさい!
 砂浜でそんなスピードアップされたら、ちょっと……28歳にはキツ……ぬおっ!?
 ……コケて砂に顔から突っ込んだ。
 うぐ。光速で走ってコケるとこんなに痛いものなのか! ぐふぅ。
 あまりの痛みに動けないでいると砂を踏む音がためらいがちに近づいてきた。

「だ、大丈夫か、サ……カノン?」

 お、おお! ミロが戻ってきてくれた。
 これは脈アリとみてもよいのではないのか、カノンよ!

「なんか……ケツ……破れてるけど……ていうか、割れ目がふつーに見えてますけど……」
「う、うむ。これは最初に穿いたときにビリリと逝ったぜ」

 助け起こされながら答える。

「破れたまま歩いてたのか! 今まで!? ざけんなよっ!! そんなカッコで隣いたんかいっ!?」
「何か問題でも?」
「ナイわけナイだろがっ!!」

 短気だな、ミロは。
 まぁいい。とりあえず……

「つぅ~かまぁ~えたぁ……」

 首に腕を回して捕獲。低音で耳元に囁いてやった。

「!!? し、しまっ……!!」

 ジタバタともがいてまたも逃走を図ろうとするミロの首に腕を引っ掛けたまま、引きずり歩く。
 もうすぐホテルというところで突然、前に進めなくなった。
 振り向くとミロが電柱にしがみついている。
 まったく、手のかかる子だ。

「コラ、電柱から離れなさい。さもないと……」

 引っ張っても離れないので、仕方なく電柱を折ってそのままGO☆
 途中で諦めたらしく、電柱を手放してくれたのでよかった。
 弟の片思いを成就させんがため、ホテルに監禁し、私は翌朝まで頑張った。


■□■


「ふぃ~、スッキリ♪ ……カノン! 戻ったぞ」
「キサマ、俺の服をぶんどってどういうつもりだ!?」

 あ。そういえば、カノンの服、どこやったっけな?
 だがどうせ同じ服を何枚も持っているのだからよいではないか。
 その証拠にホラ、またおんなじの着てる。のび太バリに同じだ。

「ミロとデートしてきた」
「……え?」
「お前のフリして、ミロとヤッてきた」
「………………死……」
「ん?」
「死んでしまえっ! ギャラクシアン……ッ」
「待てっ! 私はお前に感謝されこそすれ、殺害されるいわれはないぞ! ミロをお前にベタ惚れにしてやってきたのだからなっ!!」
「な、なに!? ベタ惚れ!?」
「フッ。このサガにかかれば、造作もないこと。会いに行って来るがいい、我が弟よ!」

 ゲンキンな愚弟はそそくさと天蠍宮へ出かけていった。
 ……が。
 しばらくすると戻ってきて、この私に、誰にもまして美しいこの私の顔面にとび蹴りを食らわせおった。

「おまっ……! ホンッッットに俺に化けてたんだろうなっ!?」
「も、もちろんだ、何をそんなに怒っているのだ!?」
「ミロが……っ! ミロが……お前にベタ惚れやんけっ!! お前がいかにスンゴイのか、目の中にハートちらつかせながら惚気話聞かされたわ、ボケがっ!!」

 愚弟は血の涙を流しながら叫んだ。

「ふむ。それはおかしいな? ちゃんとカノンと名乗ったし、だぜってしゃべったし……」
「だぜってなんだ、だぜって!?」
「だぜってゆーじゃん。だぜって」
「言ってない!! 毎日顔を突き合わせておいて、弟がどうしゃべってんのか理解しとらんのか、キサマは!?」

 ん~? そうだったかな?
 私は胸倉をつかまれて揺さぶられながら、考えた。
 だぜってしゃべってたような気がしたのだが、そういえば、今もだぜってついてないなァ? あれぇ?

「勝手なイメージつけてんぢゃねーよっ!! ていうか、責任取れ、責任っ!!」
「それは責任を取ってケッコンとかいう……」
「ケッコンすなっ!!」
「そうキャンキャンわめくでない。見苦しい。ならば今度はお前が私に成り代わって、今後は付き合えばよかろう」
「そ、そうか! それは名案…………」

 ぽんと手を叩いて、表情を明るくした愚弟だったが、すぐにまたうなだれる。

「それって……俺……ものっそい情けないんだが……」




 …………愚弟が、あれ以来、部屋から出てこなくなりました。
 でも相変わらず、想像上ではミロと相思相愛らしく、毎日のようになんかほざきつつ、独りでサカッている様子。

「フゥ。引きこもりの扱いは難しいな。全国の引きこもりな息子を持つお母さんの気持ちがわかるな。フッ」

 お兄ちゃんは大変だぜ。



[おしまい]

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