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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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黄金三角形:6

カミュ視点続きです。
いつも感想などありがとうございます。
書く力になっております(*´∀`*)
上手く伝わるか心配しつつ、カミュミロ目指して頑張ります。
カノンが変態道まっしぐらなので、一番書いてて楽しいです(笑)
ミロも道化ちっくで楽しいです。
問題はカミュだな;
恋の鞘当に発展するまでまだかかりそうなので;
 次回はミロ視点に戻るかな?




 ミロと、あと一人。

「悪いな、買い物に付き合ってもらって」

 ……サガ?
 私が振り返ると二人は会話と歩みを止めてこちらを注目する。

「カミュ。どうした」

 サガを連れたミロが再び足を動かして近づいてきた。

「いや……別に用は……」

 待て。
 確かに用はないが、ここでいつも通りに言えば、また用がないのなら……と会話が成立しなくなる。
 最近はどうしてか、そういうパターンが多い。

「用は……そう、お前に会いに来たのだが」
「俺に?」

 心底意外そうな顔をして彼は首をかしげた。

「俺に……」

 そんなに不思議そうにされるとまるで私が自分から動かない人間みたいではないか。
 ……まぁ、確かに自ら誘いに行くことは滅多になかった気もするが、それはミロが先にこちらに来るからであって……。

「ていうか。会いに来たのなら、その理由があるのだろう? どうしたんだ?」

 ミロは話を始めに戻して、ドアを開く。

「お前の顔を見に来るという理由で来てはならんのか」

 負けじと私も言ったが、彼は納得できかねる様子でまたも首をかしげるのだった。

「ははっ。どうした、何だか変だぞ、カミュ? 頭、大丈夫か?」

 …………。
 頭、大丈夫かって……そんなにおかしいことなのか、私が友人に会いに来ることが。

「……何かあるのなら、カノンには申し訳ないが遠慮してもらおうか?」

 冗談を引っ込めて真顔になるとミロは隣に立つサガ……ではなく、その双子の弟に視線を走らせた。
 視線を受けたカノンは射殺すような険の入った瞳で私を見据える。

(……コイツ……)

 私も黙って“カノン”を睨み返す。

「ミロよ」
「うん?」
「その男はここに何をしにきたのだ?」
「……その男って……カノンか?」
「他に誰がいる?」
「何って……ゲームだけど?」

 ゲーム?
 私が眉をひそめるとミロは実にあっけらかんとした表情で言い放った。

「俺んトコにゲーム機あるって言ったら、やりたいっていうから連れてきた。そうだ、カミュもや遊んでくか?」
「……そうだな……せっかくだから、混ぜてもらおうか」

 ハッキリ言って、ゲームなどに興味はなかったが、このカノンとやらが気に食わない。
 何故、ほとんど顔もあわせたことのない人間に、理由もなく睨まれなくてはならん。
 今の視線には明らかな敵意が含まれていた。
 釈然とせん。
 しかしミロが軽く私をゲームにだが誘ってきたな。
 やはり私の気にしすぎだったのだろうか。
 ハリキッて部屋に案内し、TVゲームを準備する姿はいつもの彼以外の何者でもない。
 やがて大きな画面にゲームのキャラクターが映し出されるとミロはコーヒーでも淹れてくると引っ込み、私とカノンの二人が同空間に取り残された。

「……二人で出かけてきたのか、……ええと、カノン?」

 重い沈黙がしばらく続いた後、私からきりだした。

「ああ。服を買いにな。ミロに見立ててもらってきた」
「……そうか」

 ゲームなどという子供の遊びが似合わぬその男は、相変わらずの鋭い目を画面に向けたまま、ゲーム機に触る気配も見せない。
 本当にゲームで遊びたいと口にしたのか、この男が?

(にわかには信じがたいな……)

 だいたい、服など一人で会に行けばいいものを。
 なんだって……
 そんな風に考えていたら、「お待たせ」とミロが菓子とコーヒーカップを乗せたトレーを持って現れた。

「なんだ、先に始めててよかったのに」
「始め方がわからんのだ」
「おお、そうか」

 テーブルにトレーを置くとミロはスタートを押して、カノンに説明し始める。

「音楽の通りになるようにこのボタンを操作して……」

 ミロが傍に来るやカノンはすぐに敵意をしまいこみ、何事もなかったように穏やかな兄の顔になる。

「曲がかかったら、そう、それ押して……そうそう。上手い、上手い♪ あっ、ばか、違う……あーっ」
「う、むっ、難しいな」

 楽しそうに遊び始める二人を眺めて私は、思う。



 “気に入らない”。



 なんなのだ、あの男は。
 初対面に等しい人間に対してあの態度。
 サガと同じような顔をしているが、中身はまったくの別物というワケか。
 ミロといる姿を見ると、サガとしか思えないのだが。

「う。早くもゲームオーバーになってしまったぞ」
「はははっ♪ 慣れればすぐクリアできるって。……カミュ、お前もやるか?」
「いや、結構だ」
「ふぅん? ……ていうか、やはり何か言いたいことがあるのではないのか? お前といい、カノンといい、どうして物事をハッキリ言わぬのだ。察しようとする身にもなってくれ」

 察するも何も用など本当にない。
 ミロ自身の様子を見に来ただけだ。
 むしろ、ミロにこそ何かあるのではと思っていたのだが、TVゲームに興じている姿を見る限りでは普段と変わりない。
 氷河の言葉とたまたますれ違いが多く生じたために、過度に気にし過ぎただけか。

(何もないならそれでいい。それよりも……)

 気になるのはカノンの存在だ。
 海皇を操り、地上制圧しようと企んだ男。
 それがゲームをやりたいとついてきた?
 バカな。
 人の良いミロを懐柔したいだけだろう。
 ……何を考えている?
 ミロを味方につけて、得になることといえば……?

「ミロよ。先ほど、私といい、カノンといい、と言ったな? カノンはお前に何を伝えようとしたのだ?」

 立っているミロの腕を引っ張り、姿勢を低くさせると、顔を近づけ小声で話しかける。
 もちろん、ゲーム画面に向かっているカノンに聞こえないように、だ。

「それがわかれば苦労はせん。……まぁ、でも……きっと、寂しいのだろう」

 軽い調子で言うとミロはつかまれた腕を外して、私から離れていった。

「カノン、どうだ? クリアできそか?」
「無理だ。手本を見せてくれ」
「よし、じゃあ交代な♪」

 TVの前に胡坐をかいて座る二人の後姿を見つめる私の胸中は複雑だ。
 利用するために近づいているとしか思えない。
 しかし何をするつもりなのか。
 ミロを使って出来ること……?
 周囲の信頼を勝ち取ることか?
 ミロが後ろ盾となれば、裏切り者とはいえおいそれと口は出せない。
 さらにミロが信用したということで、アリオリアやムウまでも取り込むことが出来る。
 まずは足元を固めようというのか。
 カノンが帰るのを確かめて私も一度は天蝎宮を離れた。
 その後で再び舞い戻る。

「ミロ。邪魔をするぞ」
「うわ、ビックリした。帰ったのではなかったのか」

 勝手にドアを開けて踏み込むとミロは食器を片付けているところだった。

「ミロ、カノンと手を切れ」
「? なんだ、唐突だな」
「ヤツは敵だった男だ。あらかたのことは、氷河から聞いて知っている」
「ならば、冥王軍と共に戦ったことも聞いているだろう」
「ああ」
「……では何故、手を切れと?」

 ミロは気にする風もなく、食器の片づけを再開する。
 キッチンに運んでいく背中を追いかけ、私は続ける。

「何故ではない、何故では。敵の、しかも黒幕だった男だぞ」
「大丈夫だ。敵だったのは、過去の話。今は我々の仲間だ」

 ……出た。
 またコレか。
 何度裏切られ、何度傷つけば気が済むのだ、この男は。
 ミロという男は、他人に対してなかなか心を許さないが、一度、信用した相手には全幅の信頼を寄せる。
 人選は蠍座らしく独特で、例え相手が誰からも尊敬され愛される天使のような人格者であろうとも、信用しないときはまるで相手にしないし、残虐非道の極悪人であろうと懐に入れてしまえば、あっさりと信用を置いてしまう。
 これは彼の最大の美点であり、最大の欠点でもある。
 本能で解るだとか、本人はのたまっているが、私から見れば危険極まりない。
 特にあの男……カノンからは絶対悪の臭いを感じる。

「仲間なものか。目を覚ませ」
「目ならちゃんと開いている。お前は知らないから心配するのも無理はないが、ヤツは間違いなく、アテナの聖闘士だ。俺が請け負う」

 そこが一番の不安材料だというのだ、わからんヤツ!

「お前が請け負うというと余計に気にかかる」
「無礼だな。俺の目が節穴みたいではないか」
「私は昔から節穴だと思っていたぞ」

 信用して殺されかけたことが何回あった?
 私ならば、そんな愚かなミスはしない。

「……あのなァ。カノンは、過去を悔いて償いのために恥を忍び、アテナの元で戦わせてくれと来たのだぞ」

 私の心配をよそにミロは緊迫感のカケラもなく、カップを洗剤で洗っている。

「一度は世界征服に王手をかけた男だ。プライドが高ければ高いほど、頭を下げるには勇気が要ったろうに」
「褒めるところか、それは?! 悪党は頭を下げて改心したフリをするなど、お安い御用に決まっていよう」

 真の自尊心の塊であるお前とは違うのだぞ?
 何故、誰しも自分と同じだと思ってしまうのだ。

「それにヤツは俺のスカーレットニードルを14発まで受けて耐え抜いた。……わざわざだ。そこまで改心したフリだけでできるか? 死ぬんだぞ? 俺と戦い、勝利することだってできたはずなのに、無抵抗で受け入れたのだ。それだけの覚悟を見せられれば、きっとお前とて信用するさ」
「しかし……ッ」
「カミュ!」

 なおも言い募ろうとする私にミロの鋭い声がかぶさった。

「……やめてくれ。お前がどう思おうとカノンは俺の友だ。友を悪く言われていい気はしない。ヤツに会ったばかりのお前にすぐに同意を求めようとは思わん。お前の反応もごく自然なものだろう。だが、いずれ、きっと解る。解ってもらえる。お前にも。……その自信が俺にはある」

 食器についた泡を流し終わり、ミロは身体ごとこちらを向いた。

「悪いが、今日は帰ってもらえないか?」
「……すまん。気を悪くさせてしまったようだな」
「いや、そうではないが……。お前の言い分も理解できる。ただ……少し、放っておいてもらいたい」

 こう言われては、もう返す言葉は残っていない。
 気がかりではあったが、今は引くしかなかった。




 それから何度も二人が時間を共有しているのを目の当たりにすることになる。

(……ナルホド? 私が誘っても乗ってこないワケだ。先々の予定まであの男が占領しているのか)

 それならそれで別に構わない。
 相手が、アイオリアや他の黄金だというのなら。
 ただ、カノンだけは別だ。
 私はあの男が嫌いだ。
 あまり他人を一方的に毛嫌いするタイプではないつもりだが、あの男だけは受け入れられない。
 何故なら……
 間接的だったにせよ、私の弟子アイザックを死に至らしめた男だからだ。
 身内である氷河と戦わせ、二人を傷つけ殺し合いをさせた。

(……許せない)

 そんな男が次はミロだと?
 今度はミロを使って何をする?
 いずれ解る? 冗談ではない。
 改心したと何故、言い切れる?

(ミロに解いても、もはや無駄。こうなったら私自身が尻尾をつかんで正体を暴いてくれよう)

 意気込んで双児宮を訪れる。
 ヤツはサガに代わり、今や双児宮の主……つまり、双子座の聖闘士として第三の宮に君臨していた。
 一体、聖域はどうなってしまっているのだ。
 世界を滅ぼそうとした者が、聖闘士のトップ?
 我らと同じ黄金の一員?
 サガは聖衣を手放し、今や教皇の補佐として働いているというのに。
 補佐といえば、聞こえはいいが、教皇自身が監視についたのだと私は解釈している。
 しかし弟のカノンはどうだ?
 ほとんど野放し状態ではないか。

「カノン! 出て来い! 話があるッ」

 双児宮の回廊を進み、真ん中に来た辺りで叫ぶ。
 石造りの建物の中で声が反響した。
 いるのはわかっている。
 一歩踏み込んだときから、拒絶の気配を感じていた。
 警戒をしながら待っていると、やがて暗がりから硬い床を踏む音と共に長身が姿を現す。

「物静かそうな外見に似合わず、ずいぶんと攻撃的だな。そっちからいきなり押しかけてきて、出て来いなどと、どういう了見だ?」

 見下したような視線を投げかけ、男は腕を組んで側の柱に背を預けた。

「長くは時間を取らせない。……率直に言おう。ミロから手を引いてもらおう」
「うん? それは一体、どういう意味かな?」

 しらばっくれるようにヤツは口元を歪ませて端を吊り上げる。

「キサマが何を企んでいるかわからんが、ミロを利用するのはやめろ。アイツは貴様を信用しきっている」
「信用しきっている? ミロが俺をか? ……そうか。それは喜ばしい」
「……ふざけるな!」

 こんな男を……ミロも……あの子……アイザックも何故信じた?

「では俺はお前にまず一勝したワケだ」
「ナニ?」

 眉をひそめる私にヤツ……カノンは続けた。

「お前はミロに信用されなかったではないか」
「……な……」
「冥王の手先となり、乗り込んできたお前たちにミロは宣言したそうだな。皆殺しにしてやると。……ははっ。ざまぁない」

 言い返すより先に手が出ていた。
 相手の胸倉をつかみ、拳を握る。
 こんなふざけたヤツに!
 私の…………

(…………アイザックが……!)

「あのときは事情が違う。例えミロが貴様を信用しようとも私は貴様を絶対に許さん!!」
「許さない? お前ごときにそのように言われる筋合いはないと思ったが?」
「白を切るつもりか!? アイザックを忘れたとは言わせんぞ!!」
「アイザック? ……ああ、お前が師匠だったな」

 カノンは難なく私の手首をつかんでねじり上げると身体を突き放した。

「……くっ……!」

 なんという握力!
 握られた手首を見ると太い指の痕がくっきりと浮かんでいる。

「……アイザックのことは、申し訳なく思っている。まだ……子供だったからな。だが、悪いがアイツはどちらにせよ、命を落とす運命だった」

 初めてカノンが目を伏せ、挑発するような態度をやめたが、言葉の内容が私の神経を逆撫でた。
 死ぬ運命? 運命だと、殺した貴様が言うか!?

「海皇が目覚めなければ、アイザックは海将軍になることはなかった!!」
「その代わり、海の藻屑と消えていた。……だろ?」
「……!!」

 再びまぶたを上げたヤツの目には、侮辱と憐憫の色が滲んでいる。

「アイザックは弟弟子のために怪我を負い、海に落ちた。力尽き、溺れ死ぬところを海皇に呼ばれて海底神殿に落ちてきた。それで命をつなぎとめたのだ。海皇が目覚めていなければ、そのまま遺体となり、冷たい海をさまよっていただろう」
「……それは……自分が海皇を起こしたから、アイザックの命が永らえたと? 自分が助けてやったとでも言いたいのか!?」
「そうではない。どちらにしても、あの子は生きてはいなかったということだ」
「……ぐ」
「俺が彼に謝罪すべきは、弟弟子と殺し合いの場を与えてしまったことについてだ。負けて死んだのはアイザックの力量不足。本人の責任であって、俺の与り知るところではない」
「なんだと?」
「もちろん、海将軍になることを拒絶したアイザックを抱き込むためにあれこれと吹き込んだのは俺だ。その点についても、当人には謝罪すべきであると思っている」

 吹き込んだ……やはりそうか。
 それはそうだろう。
 あの子は、アイザックは地上のために戦うと口にしていたのだ。
 それが急に掌を返すわけがない。
 氷河を助けるために自らを犠牲にする子が、氷河と自ら敵対するなどあろうはずがない。
 全て、全てはこの男が仕組んだ……!

「だが、勘違いするな、小僧? だからと言って俺はお前ごときに頭は下げんぞ。お前は弟子である氷河と死闘を演じた。理由はどうであれ、結果は同じコト」
「貴様と一緒にするな!」
「……何か違ったか? いや、違うか。俺はアイザックを殺していないが、お前は氷河を殺そうとした。タイミングが違えば、ミロをも手にかけるつもりだったな」

 仕方がなかった。
 氷河を生かし活かすには、私を破り、乗り越えるだけの力をつけさせねばならなかった。
 アテナと地上のためには、どうしても冥衣を纏い、味方と拳を交えなければならなかった。
 例え先に立ち塞がったのがシャカではなく、ミロだったとしても。
 だが苦しくなかったわけではない。
 我ら三人とも、死よりも辛い苦しみに耐えて戦ったのだ。
 それを……!

「……ッ!!」

 拳に凍気を纏わせ、無言で殴りかかった。
 カノンは柱から離れてそれを避ける。

「お前は結局、アイザックの無念をどこかにぶつけたいがためにミロを理由として俺に難癖つけているわけだ?」
「違う! ミロをアイザックと同じようにするなと言っているのだ!!」
「心配するな。同じにはならんさ」

 さらに繰り出した拳を掌で受け止められ、横からは鋭いひざ蹴りが迫り来る。
 後ろに飛んで距離をとると改めて構えをとった。

「俺はミロを利用するつもりなんかこれっぽっちもない」
「ならば何故、必要以上に近づく?」
「……そんなのは、決まっている」

 ヤツは特に戦闘の構えをとる様子もなく、両手を腰に当てて鼻から息を吐き出した。

「欲しいからだ」
「……!?」

 どういう意味かと問う前に、間にミロが割り込んできた。

「二人とも! 何をしている!?」
「「ミロ!?」」

 私とヤツとが同時に叫ぶ。

「小宇宙を感じて来てみれば……! まったく、いい加減にしないか、二人とも」
「ミロ、邪魔だ。そこをどけ……。私はその男が許せん」
「カミュ! 私闘は禁じられている、忘れたのか!?」
「その男はお前のためにならん!!」
「ためになるかどうかの問題ではないし、それは俺が決めることだ」

 意図しない形でミロと対峙する羽目になってしまった。
 その向こうでは、あの男が勝ち誇ったような笑みを浮かべている。

「なぁ、カミュよ。拳を収めてくれないか?」
「……しかし……この男は……」
「この間……二人を引き合わせた日にお前が後からもう一度来たろう? 忠告をしに。それで後から気がついたのだが……お前は、アイザックのことを知って……」

 ……!
 カノン、ミロと続けさまに二度も言い当てられ、私は絶句した。

「大事なことだったのに……気が回らなくて……すまなかった」
「ま、待て。そうではない。お前が謝ることでは……」

 頭を下げられて慌てる。
 ミロに謝って欲しいのではない。
 カノンに、あの男に報いを受けさせたいのだ。

「だが、どうか……どうか、許して欲しい。カノンは本当に悔いているのだ」

 ミロはヤツを背に回す形で庇った。
 カノンは薄ら笑いを引っ込めて、ミロを見つめている。

「ちょっとばかりヒネているから、そうは見えんかもしれないが、今後もずっと、生涯をかけて償っていくつもりなのだ、カノンは。青銅や白銀にやらせれば済む任務も自ら名乗り出てこなしている。散った海将軍の魂に慰めの花を手向けてもいる。今すぐでなくていい。だが、もう少し時間をくれてやってくれ。……頼む」

 「ミロ……」と呟いたのは、私ではなく、匿われた形のカノンだった。

「……ミロの前では、真摯に罪と向き合う誠実な男というわけか。とんだ三文芝居だな」
「カミュ!」
「もうよい。ミロ。お前がそうまで言うのなら私はもう……。だが、その男を信じたことを後悔することになっても知らんからな」

 口惜しかったが引き下がり、私は宝瓶宮に戻った。
 怒りのやり場を失くして柱を殴りつける。
 善人を装いミロを誑かしているヤツが許せないのはもちろんだが、易々と騙されいいように盾となっているミロ自身にも腹が立った。
 もう知らん。

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