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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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墓標~冒涜:2

「泥だらけではないか」

 内心、舌打ちをしながら、何でもないように大股で近づく。

「ちょっと……その……躓いてしまってな。汚れたし、そろそろ帰ろうと思っていたところだ」

 泣き腫らした顔を俯くことで下がった髪に隠し、傷ついた心を平静を装った声で隠して、ミロは俺の横をすり抜けた。
 見せようとしてくれないその素顔は、そこに眠る男だけのものなのか。
 長らく閉じたまま錆付いていた俺の心を根こそぎ奪っておいて、それでは……ズルイではないか。
 故人に妬いても勝てるわけがない。
 だが恨めしい。
 死してなおアイツの心を繋ぎ止めている水瓶座が。

 息苦しい。
 息苦しい。
 生き苦しい。
 焼かれる。
 妬かれる。
 焦がれる。



 立ち去ろうとするミロの二の腕を無意識にこの手がつかんだ。
 引き止める理由なんて用意していない。
 思わず出た行動を後悔するより先に、すげなく振り払われて、瞬間、頭に沸騰した血が集まった。
 払われた手にもう一度力を込め、肩をつかみ、強引に振り向かせる。

「なん……っ」

 反発する相手の言葉を口付けで飲み込んだ。
 躊躇いなく、開きかけの咥内に舌を滑り込ませる。
 ばさり。俺が持っていた傘が足元に落ちた。
 驚いた表情のまま固まってしまったミロの腰を引き寄せて、温度の上がった身体を押し付けた。

「うっ……」

 後ろに身体を反らして逃れようとするのを許さず、柔らかい金の髪に指を潜り込ませて後頭部を引き上げる。
 そうすることで口付けが一層深くなった。
 侵入に怯えて奥に縮こまる舌を執拗に追いかけて絡める。
 肩を押し返される抵抗も、今の俺には何の障害にもならない。

「んう……」

 口付けの間に漏れる、苦しげな声が耳の奥を震わす。
 濡れて体に張り付いたミロの白いシャツに、上気してほんのりと色づいた肌が所々透けて見える。
 それに気づいた途端、頭の芯がチカチカとおかしな光を放った気がした。


 …………美しい。


 黒い欲望が急速に膨れ上がる。
 もはやわずかにしか残らない俺の自制心へ追い討ちをかけるように、拒否の意を示して強く閉じられていたミロの双眸がふいに墓石へ向けられた。
 助けを求めるように、あるいは見ないで欲しいと懇願するように、……水瓶座の墓石へ。
 嫉妬の炎が勢いを増し、狂おしく逆巻いた。

(くそっ)

 こんなときにでさえ、お前はあの男が気にかかるのか。
 俺の腕に囚われている今、この瞬間でさえ。
 目の前にいる俺を見ずに、死んだ男のことなど……!

(……ちくしょう)

 あああ、悋気の業火にこの身が焼かれる。
 あの男の墓の前でお前をひたすらに辱めたい。
 もう二度と顔向けできなくなるくらい。
 二度と此処へは足を運べなくなるくらい。
 神聖なこの場所で、めちゃくちゃに犯して穢して啼かせたい。
 これまで焦がれて眠れなかった夜をずっと耐えてきたのに、崩壊するときはなんてあっけない。
 手に入れることが叶わぬのなら、せめて寄せてもらえた信頼に応えうる良い友でありかったが、その涙が、その視線が、全ての決意を突き崩す。

「アクエリアスに見られるのが嫌か?」

 唇を離して耳元に囁く。

「こっ、ここを何処だと思っている!? 歴代の黄金聖闘士が眠る……神聖な場所だぞっ!!」
 開放されたミロが苦しげに大きく息を吸い込んでから怒鳴った。
「知っている」

 俺は交じり合った唾液を飲み込んで、濡れた口元をゆっくりと親指で拭う。
 ミロに今その身に起きたことを再認識させるように。

「なっ……なっ……何を考えているんだ!! 非常識にもほどがある!!」

 俺の意図が通じたのか、ミロは真っ赤になってさらに激昂した。

「墓場でなければいいか?」

 言い終るや否や、頬に鋭く熱が走った。
 そっと手を当ててみると雨とは違う、濡れた感触があった。
 ……血。
 ミロの長めに整えられた綺麗な爪先が赤く染まっており、引っ掻かれたのだと気づいた。

「貴様の悪い冗談に付き合うつもりはない。……失礼する!」

 今度こそ、俺に捕まらないよう、ミロは警戒しながら距離をとった。
 そしてすぐに踵を返して駆け出す。
 傘を拾うことも忘れて、泥を跳ね上げながら。
 途中、濡れた草に足をとられて体勢を崩しつつも、振り返ることなく一目散に逃げ去った。
 あの後、彼はどういう行動を取るだろうか。

「……口を……ゆすぐ……かな? ……ハハ」

 何度もしつこいくらいに口を濯ぐ想い人の姿を思い浮かべて、居たたまれない気持ちになる。
 きっと、嫌われた。
 そうでなければおかしい。
 他人から嫌われるのは慣れていても、全身全霊を懸けて愛した人間に嫌悪されるのは身を切られるように辛い。
 だが、こんなことになった以上、もう後には引けない。
 愚直なまでに寄せられた信頼を裏切って、元の鞘に戻れるとは思わない。
 それならば。

「……てやる……」

 雨に打たれながら、触れる者を失くした両手を握り締める。

「…………入れてやる」

 手に入れてやる。
 どんな手段を講じてでも。
 俺は生来、強欲な男だ。
 多少のことで身を引くようなことはしない。
 欲しいものは必ず手に入れる。

「もう、いい」
(もう、いい)

 大人しく、友情ゴッコをするのはやめだ。
 かつて世界を欲した以上にミロ、お前が欲しい。
 お前に愛されたい。
 お前の気を引きたい。
 独占したい、支配したい。
 きっと、俺が真に渇欲していたのはこれなのだ。
 世界を支配するなど所詮、代償行動に過ぎなかった。
 お前を手にできたら、そのときこそ俺の飢えは満たされる。
 手段など問わない。
 歪な形になってもいい。
 それでも手にしたい。
 身も心も……この腕の中に。

「貴様から…………引き剥がしてやるぞ、アクエリアス」

 墓標に一瞥くれて、薄く笑った。
 ざまぁないな。何も出来まい、お前には。
 その冷たい石の下で黙って眺めているがいい。
 お前の天使が穢れた俺の手の中に堕ちてゆく様をな。



 

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