半人前先生カミュの子育て奮闘記。
赤ちゃんはどうやって生まれるの?そんな恐ろしい質問がついに半熟先生に襲い掛かる!!
これまでコウノトリ説でなんとか切り抜けてきたが、弟子たちももう13歳!
真実を語るときがやってきたのだ。
一般的にかなり遅れている! もはや一刻の猶予も許されない!!
困った先生、親友の手を借りてあれやこれやと説明のために奔走。
次回、性闘士カミュ! 特に続きはありません!の巻。
キミは小宇宙を感じたことがあるか!?
※完全にギャグですが、カミュミロ、氷ミロです。
「先生、赤ちゃんってどこから生まれてくるの?」
ある日突然、その恐るべき爆弾は投下された。
「なんだ、そんなことも知らないのか氷河? 赤ちゃんは、コウノトリが運んでくるんだぜ。そうでしたよね、先生?」
「う、うむ」
……マズイ。
これまでずっと誤魔化してきたが、いくらなんでもいつまでもコウノトリ伝説にすがっているワケにもいかない。
だって……!
二人とも13歳なんだもんっ!!
私、アクエリアスのカミュ(19)はうろたえた。
大変、うろたえた。
マジでうろたえた。
とうとう……!
とうとう私の口からそんなアハンでウフン的なことを教えなければならないときが来たというのか!
困った。
非常に困ったぞ。
こういうときこそ、友だ!
相談してみよう。そうしよう!
……というワケで私は電話を取り出した。
「えー、もしもし? こちらカミュ。ミロさんいますか、どーぞ?」
手製の電話機に話しかける。
……。
…………。
………………。
むむ。電話の近くにいないのか?
それとも糸がたるんでいて伝わらなかったのか?
もう少し紙コップ……いや、受話器を引っ張ってみるか。
と、思っていたら、ギリシャから返信があった。
『はい、こちらミロです、どーぞ?』
おお! いてくれたか、助かった。
「緊急事態だ、今からすぐにこちらに来て欲しいどーぞ?」
『どのくらい緊急? どうぞ?』
「快速電車に乗ってしばらくどの駅にも止まらないのに、腹がゴロゴロいいだしたくらいのレベルです、どうぞ?」
『む、それはまさに危機! 今からそちらに向かいます、どうぞ』
「お待ちしております、どうぞ」
『通信終わります。どうぞ』
「わかりました」
……よかった。
これで一先ず安心だ。
私は糸電……じゃなかった、手製の電話機を机の上に置いた。
「はぁっ、はぁっ! 来たぞ、カミュ! 大丈夫か、腹の具合は!!」
早速、頼もしい親友がきてくれた。
「……電話を置いてから、1分足らずだがずいぶん早かったな。シベリアまで」
「ああ。光速電車使ったからな。ちょっと電車に使う紐が見つからなくてドタバタしたが」
親友は、両手に持っていた紐の輪っかをくぐって言った。
「この電車、どこに置いとけばいい?」
「うむ。その辺のハンガーにでもブラ下げておく」
私は紐……じゃなかった、電車を受け取ってその辺に放り投げた。
「ハンガーじゃないの?」
「後でやる。今はそれどころではないのだ」
私はことの次第を彼に伝えた。
子供の作り方……すなわち!
嬉し恥ずかし家族計画の仕方を!!
「うえっ!? まだ教えてなかったのか、そりゃマズイって!!」
「や、やはりそうか……ヤバイのではないかと薄々思ってはいたのだが……」
「先延ばし先延ばしをして13歳になってしまった……と?」
「……有り体に言えば」
「何が有り体に言えば、だ。大問題だぞ、それ」
「だからこうしてお前に来てもらったのではないか」
ゴショゴショと相談していたら、弟子たちが来客に喜んですっ飛んできてしまった。
「わー、お久しぶりです、ミロ~♪」
「お、おぅ、氷河。大きくなったな」
「チッ。手土産もなしに来たのか、気が利かないな、相変わらず」
「……殴るぞ、そこのミドリ頭!」
私の可愛い弟子たちがお利口さんにも客人にご挨拶をしている。
氷河はミロの手を引いてソファーへ案内し、ちゃっかり隣に座ってしまった。
気の利くアイザックが人数分の茶をトレーに乗せて運んでくる。
さて。
私は手を叩いて、弟子たちの注目を集めた。
「これからミロ先生が、赤ちゃんが出来る真の方法を解説してくれるからよく聞いておくんだぞ」
「ちょ……!? 待て、なんだそれはっ!? 嫌だぞ、俺はっ!!」
「えー、何でですか、ミロ先生?」
「何故って……その……お、おい、カミュ! 俺に振るなよこんなことっ」
うーむ。やはりミロもダメだったか。
それはそうだろうな。恥ずかしいもんな。
仕方がない、こうなれば奥の手だ。
「言葉で説明するのは難しいので、実践をしたいと思います!」
「……は?」
私の宣言に親友は間抜けヅラでポカンと口を開けた。
「さあ、氷河かアイザックかどちらから始める?」
「よくわからないけど、俺が最初がいいですっ♪」
元気よく氷河が手をあげた。
そして友が私に手をあげた。
ドカッ☆
「ふ、ざ、け、ん、な!! 未成年に何をしようとしてるんだ、バカモノ!」
「私もギリギリ未成年だから大丈夫」
「微塵も大丈夫じゃないっ! 13歳の弟子にチョッカイ出そうとするな、この変態!!」
ヤキモチ? それはヤキモチなのだな、ミロよ!?
そうか。弟子相手はいけなかったのかもしれん。
そのつもりでなくとも浮気になってしまうからな。
「では二人とも。まずは私とミロでお手本を見せるので……」
「ブッ!? 何を好き好んで子供の前でそんな手本を見せなければならんのだっ!? 嫌だぞ、俺はっ」
「そこをなんとか」
「無茶言うな!! 他に手立てがあろうが!!」
「そうか。実物は刺激が強すぎるかもしれないな」
「問題はそこじゃないっ!」
「うむ。良いことを思いついた。アレがあったではないか」
私は聖闘士聖衣神話のカミュとミロを持ってきた。
黄金のマイスは出来がイマイチなので、ミロはEX、私のEXはまだ販売されていないので冥衣の方を選んだ。
「ええとだな、二人ともよく見ておけ? ……これをこう……」
「やめぇーいっ!!!」
人形2つで再現して説明しようとしたら取り上げられてしまった。
「なんでよりによってソレでやんだよ、アホかっ!!」
「他に人形がなくてな」
「……本でも買って与えればいいだろうが!」
「エロ本か!」
「ちっがう!! ホラ……その……こう……あるだろ、教育的なちゃんと真面目な教科書みたいのっ!」
「AVレンタル?」
「AVはダメ! 間違った知識持っちゃうだろが! てか、“真面目な教科書”って言ったの聞こえなかった?」
親友は鬼の形相で私の耳を引っ張り上げた。
……痛いではないか。何をする。
「ではお前が買ってきてくれ」
「エッ!? なんで俺!? 嫌だよ! 恥ずかしいじゃんっ」
「私だって恥ずかしい」
「お前の弟子に教えるのになんで俺がっ」
「だって嫌だモンッ!!!」
「モン言うな、真顔でモンゆーなっ!!」
結局、アハンでウフンな教科書案はボツになった。
だって本屋さんでどのツラ下げて購入せよというのだ。
別の本の下に隠しても、絶対に上にされるし、表紙だって引っ繰り返されるに違いない。
しかも大きな声で読み上げて、私を辱めようと企む店員がいないとも限らないのだぞ!
そんなの嫌だ!! それはもう、絶対に!!!
仕方なく、私は紙芝居を作ることにした。
「だからっ! なんでモデルが俺とお前なんだ、いちいちっ!!」
「……だって」
「だってじゃない、だってじゃ!!」
「さっきから否定してばかりで全然、代案を出してくれないではないか。この役立たず」
「教科書ッつたろが!」
「それは恥ずかしいから却下」
「弟子の前で実践とか人形とか紙芝居は恥ずかしくないのか!?」
「……まぁ、照れはするが仕方あるまい。教育のためだ」
「…………。わからない。俺はお前の基準がさっぱり理解できないよ、カミュ」
「……そうか」
なんだか、友は両手で顔を覆ってさめざめと泣きはじめてしまった。
私の知らないところで色々辛いこともあったのだな。
しばらくそっとしておいてやろう。
私は精一杯の優しさをみせて、放置プレイをかました。
やがて出来上がったフルカラー紙芝居を弟子たちの前で読み聞かせをしようと準備を整えた。
「ミロはちゃんと自分のところのト書きを読むんだぞ」
「………だから………なんでモデルが……」
「よいではないか。ちゃんと男女に書き直したし。LOS版カミュとミロ子で」
……紙芝居は取り上げられて、無言のままの親友に破り捨てられてしまった。
あーあ。力作だったのにぃ。
そんなこんなで結局、嬉し恥ずかし家族計画がどのようなモノであるかを上手く教えられぬままに、一番弟子がなんかいなくなっちゃった。
びしょ濡れで戻ってきた氷河に聞いてみたら、知らないというので、たぶんそのうち帰ってくるだろうと放置しておいた。
一年後、私が氷河に殺されたり、蘇ってまた死んだりしている間に行方不明だったアイザックが海界にいたらしくて、それも氷河が息の根を止めてて、でもええい面倒! と皆で気合で蘇り、本日。
大手神様ポセイドンとこに就職していたアイザックが里帰りしてきた。
「カミュ、男も妊娠したりする!?」
なんと、久しぶりに会った一番弟子は「妊娠」という単語を覚えて戻ってきたのである!
氷河には結局、こっそり隠しカメラで記録しておいた私と親友の営みDVDを見せたが行方不明だったアイザックには見せられなかったからな。
ちょっと心配していたのだ。
「ね、する?」
「せん」
「そっか。……よかった」
……ん? よかっ……た?
「あ、想像妊娠っていうのは? 想像でホントに子供できちゃう?」
「男はせんと思うぞ」
女もそんなんでお子さんが出来たとか聞かないなーあ。
女のコトはよく知らんけどー。
「ホント?」
「……だいぶ経つがミロが想像で妊娠したとか聞いたことないからな」
想像力が貧困なだけかもしれんが。
「そっか。ならいいんだ」
……なんだか……とっても引っ掛かるのだが。
「あ」
「なんだ、まだあるのか!?」
「……その……相手の……アレ……つまり……その……出したモノが体内に残っていたりしても、大丈夫なのかな?」
「…………なんの心配をしているのかな、さっきから……」
先生は、とてもとても心配になってきました。
「いや、うん。いいんだっ、別に。じゃあ、俺、そろそろ海底神殿に戻るから……」
「……ちょい待ち」
「へ?」
「私も海底に案内してもらおうか。いつもお世話になっているようだから、ご挨拶しておかないとな」
「い、いいよ、いいよっ! 来なくてっ!!」
「いいや、行く!!」
私の弟子に手を出しているのはどこのどいつだ!?
しかもあんな心配をしているということは、ゴムなし中出しってコトか!
ナメるな、人ンちの子に何をしくさる!?
「カミュ、出かけるの? 行ってらっしゃい。じゃあ俺はミロんトコ行ってこようっと♪」
……なに?
鼻歌交じりに氷河がなんか旅行の準備とかしているのだが。
「ミロは俺の聖衣修復のときに血を分けてくれるし、いつも親切だし、もしかして俺に気があったりすんのかなぁ。……なーんてね。えへっ♪」
例のDVDを胸に抱き、目を輝かせている氷河を見た私は不安に駆られた。
ちょっと待て。
何を言っているのだ、我が愛弟子よ。
アレは先生のですよー? ダメですからねー?
すぐほだされる性格のアレが氷河の年下カワイイオーラに負けなければよいが……
私には凶暴ですぐ怒るクセして年下なんかには甘いからな。
冥王ハーデス編で何も言わずに十二宮突破しようとしたの、まだ根に持って怒ってるし。
監視があったから、言えなかったって何度も説明しているのに。
モールス信号でも送ればよかっただの暗号にして残せばよかっただのと無理を言ってくる。
「じゃあな、氷河」
「ああ。じゃあな、アイザック」
うおおっ!? 二手に分かれるなっ!!
私はどちらを追えば!?
SEI教育とは、なんとも難しいものであろうか。
私の苦労はまだまだ続きそうである。
[おしまい]