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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

星のターラー:1

 久しぶりにポセイドン神殿に足を運んだ。
 と、いっても俺の野望と共に海の藻屑となった海界の神殿ではない。
 スニオン岬にある、観光客に人気のスポットのそこだ。
 夕日に照らされて真っ赤に染まった海を遠く見つめる。

(……実際、どこまで知っていたんだろう、あの子は。いや、全て知っていたかな。悲しいまでに、聡い子だったから)

 俺はあの子が求めた手を無情にも払いのけた。
 あの子が俺に伝えようとしたことを理解しようともしなかった。
 あの子は俺を救おうとしてくれていたのに。
 それどころか……





「…カ…」

 小さな手が伸ばされた。

「カミュ……」

 顔面を酷く損傷した少年は高熱に浮かされ、なかなか意識を取り戻さなかった。

「痛い……苦しい……苦しいよ、カミュ」

 ぐしゃぐしゃに潰れて、とても見れたものではなかった左目と左顔面の傷は包帯に覆われているが、すぐに血が滲み出す。
 無事だった右目の閉じた睫毛の間から、涙がするすると零れ落ちる。
 家族であろう人間の名を呼び、宙をさまよう手。
 それが向けられたとき、俺は、

「……俺はそのような者ではない」
(カノンだ)

 大人気なく弾いて振り払った。
 ……以降、少年はうなされて手を彷徨わせても、何もつかもうとしなくなった。
 誰かの名を呼ぶこともしなくなった。
 諦めたように、力なく手を落としてしまう。
 ただ、涙と血だけが流れ続けている。
 続く悪夢の中で、どのようなことが起こっているのかわからないが、咄嗟に俺が手を払った結果だと思うと、当時の 俺でさえ、ほんの少し、苦い気分になった。

 
 海皇の結界で守られた海界は、天井に空のような海が広がっている。
 地上でサガが野望に向かって邁進している頃、俺もまた着々と準備を進めていたのだ。
 七つの海を支える柱をそれぞれ守護する海将軍は既に6名までそろっていた。
 我が野望のために必要な戦力の結集が目前。
 ポセイドンの代行者を名乗った日から12年目のある日、神殿の柱が崩れるのではないかというほどの海中地震が起こった。
 海闘士の頂点に位置する海将軍の光臨する予兆である。
 揺れの激しい中、足をとられながらもポセイドン神殿前の広場に駆けつけると既に海闘士が平伏しており、海将軍たちが天を見上げて最後のピースがそろうのを見守っていた。
 天に浮かぶ大量の海水が渦を巻き、中から人影が現れた。
 重力など関係がないとでもいいたげに、ゆっくりと、優しく何かに守られているかのように落ちてくる。
 周囲にはダイヤモンドの輝きを放った雫がゆったりと舞っていた。
 これまで同じように海界に召喚された海将軍たちは、この落下する間に体勢を整え、自らの両足で着地したが、最後の七将軍は受身どころかピクリともしない。
 体に力がなく、横になったまま手足が垂れ下がっている。
 何か様子がおかしい。
 誰もがそう感じただろう。
 気を失っているのか?
 首が痛くなるくらいに上を向いて凝視していたら、七番目のピースはそのまますとん、と俺の両腕に納まってしまった。
 別に抱きとめようと構えていたのではなく、俺の立っていた所に落ちてきただけだ。
 側まで降りて来たので両腕を差し出したら、いきなりその体は重力を取り戻した。

「とっ!」

 召喚の儀が終わり、七番目を運んでいた目に見えない力が四散したのだろう。
 続いて周囲に浮いていた雫も形を失い、バシャバシャと石の床に打ち消えた。

「……これが……最後を飾る海将軍・クラーケン!?」

 腕の中に落ちてきたのは、まだ年端もいかぬ少年だった。
 しかも顔半分を破損して、出血量がハンパない。
 色のない唇から漏れる息はか細く、今にも止まってしまいそうだ。
 凍えきった身体は、生き物であることをやめようとしている。
 ……おいおい。俺の役に立つ前に死んでくれるなよ?!
 “コレ”は力を欲する俺にとって、大事な手駒なのだ。
 12年だ。
 12年も待ったのだぞ、俺の手足となる海将軍がそろう日を。

「絶対に死なせてなるものか!」

 俺は少年を抱えたまま、駆け出した。

「邪魔だ、貴様ら! どけ!!」

 海闘士共の波を散らせて、自分の守護する柱と対成す神殿に滑り込む。
 遅れて残りの海将軍が追って来る。

「お前等、何しに来た?!」
「何って……クラーケンがケガしてるから……」
「それがわかっているなら、手ぶらで来るな! 手当ての道具を持って来い、今すぐだ!」

 苛立ってスキュラを怒鳴りつける。

「俺らに言うなって。そんなん、海闘士にでもやらせりゃいいだろ」
「誰でも何でもいい! とにかく持ってこいと言うんだ!」

 神殿内にある自分の部屋のベッドにクラーケンを横たえてから、リュムナデスに空の酒瓶を投げつける。

「うわっぶねーな! んなカリカリすンなよ、シードラゴンよぉ」
「今のはお前が悪いぞ、カーサよ。シードラゴンは新たな仲間を死なせまいと必死なのだ。お前も見習え」

 そう言う本人のクリュサオルが動く気配も見せず、悠然と腕を組んで立っている。

「いや、カーサの言うことも一理あるぞ。そうあせるなシードラゴン。俺たちだって馬鹿じゃない。ちゃんと兵に言いつけてきた。すぐに清潔なタオルも医療品も届く」
「わざわざ命じなくとも、彼らだって現場にいたのだから解っていたでしょうけどね」

 シーホースの言葉にセイレーンが付け加える。
 俺は彼らの会話を半分聞き流しながら、とりあえず絞ったタオルで少年の血を拭ってやった。

「……おえっ」

 リュムナデスが覗き込んで、すぐに顔を引っ込める。

「……これは酷いな。助かったとしても顔の傷は残るぞ」
「可哀想に……」
「こんな子供なのになぁ」

 シーホース、セイレーン、スキュラも代わる代わる覗き込んでは、裂傷の酷さに眉をしかめた。

「カーサが代わってやればいいのに」
「なんで俺かな、イオ君?」
「だって、この子、可哀想じゃないか」
「……俺は?」
「カーサの顔は大したことないけど、この子は可愛い顔してるし。どっちが優先かと考えた場合、やっぱり―……」
「何がやっぱりだ! 余計なお世話だっつーの! だいたい子供は誰でも可愛いようにできてんだよっ」
「失礼ながら、カーサの子供時代が可愛かったようには思えないのだが?」
「本当に失礼なヤツだな、ソレント。マジで張っ倒すぞ、クソが」

 ……手伝う気がないなら出て行けと怒鳴り散らしてやりたいところだったが、消毒した縫い針で裂傷をふさいでいる手前、黙って作業を進めた。
 さほど時間をおかずに、神殿には海闘士たちが殺到した。
「シードラゴン様、タオルとシーツです!」
「包帯と消毒薬、それに……」
「わかった、そこに置いておけ」
「シードラゴン様、後は我々に任せて下さい」
「いや、いい。お前たちは下がっていろ」

 俺はこの消えかかった命を他の人間に託すつもりはなかった。
 それは俺の運命をも他人に委ねるのと同義である。
 他人に任せて「ダメでした」なんてことになったら、悔やんでも悔やみきれない。
 コレは俺の野望を達成するためにも必要な道具なのだ。
 何事も自分に関わることは己の手で行わねば意味がない。

「チッ、ロクなモン入ってないな」

 渡された救急箱を開けて、舌打ちをする。
 医療品なんて呼べたものじゃない。
 とりあえず解熱剤を口に含んで水を煽り、気を失っている少年に飲ませた。
 それから低体温の身体を温めてやらねばと服を脱がせ、自らも脱ぎ始めたら……

「ギャー!? シードラゴン、アンタ何やってんの!?」
「ストップ性犯罪!! 未成年になんてことをしようとするんです!?」
「変態ではないかと薄々思っていたが……少年趣味だったとは!」

 途端にガキ共が騒ぎ出した。
 海将軍たちは年若い連中の集まりだ。
 ここに眠っている少年ほどではないにしろ、面倒なことに大半は青春真っ盛りという年代である。
 目覚める時期でないポセイドンを俺が起こしてしまったために、まだ成熟していないうちから彼らは招集されることとなってしまったのである。

「黙れ、彼女いない暦=年齢のMNO共!」(※MNO:モテない男 神聖モテモテ王国より)
「なにを!? わ、私だって、かっ……彼女くらい……」
「イオは知りませんが、私は女子にモテてましたよ」
「あ、俺、ちゃんと彼女いたから」
「え、そうなの、バイアン!?」
「フッ。この女子悩殺セクシーボイスをナメんなよ」
「ウルセェ……! この中高校生共を連行しろ、リュムナデス、クリュサオル!!」
「……俺も高校生の年代なんだが……」

 そのフケ顔で何をフザケたことを……。
 俺はクリュサオルのモヒカンを引っこ抜いてやりたい衝動を抑えつつ、全員を部屋から追い出した。

「ったく! 年頃の女というなら歓迎だが、俺だってこんな棒切れみたいなガキに添い寝なんかしたくないわ!」

 毒づきながら、手当てを終えた少年の横に潜り込んだ。
 まるで氷の塊を抱いているように冷たく、あっという間にこちらの体温をも奪っていった。

「いいか、死ぬなよ? お前は俺のために生きるのだ」

 文字通り、死んだように眠る少年の耳に囁きかける。
 俺は、海皇に選ばれた海界の少年たちを、見くびるつもりなど毛頭なかった。
 目覚めの時期ではないときに起こしてしまったおかげで、覚醒しきらぬうちに海界に呼ばれた七人……いや、六人はまだまだ実力的に物足りない。
 しかし訓練すれば、すぐに花開かせるはずだ。
 何しろ、全知全能の神ゼウスと冥界を統べるハーデスに並ぶ最強の兄弟神の一柱・海皇が選んだ聖戦士なのだから。
 その力は戦女神アテナに仕える黄金の十二人にも決して劣るものではない。
 サガが教皇に成りすまし手に入れた黄金聖闘士を凌駕するほどの実力をつけさせて、まずは忌まわしき聖域を制覇する。
 そこを足がかりとして、俺はのし上がる。
 俺を影に押し込めたヤツラを血祭りにあげ、世界の表舞台に立ってやる。
 裏と表……必ずや引っ繰り返して見せるぞ、サガ!
 野望達成のためには、とにかくこの局面を脱しなくては。
 最後を飾る七将軍がこんな子供で多少驚きもしたが、現黄金聖闘士共が幼児と呼んでもいいような歳には既に今の地位に就いていたことを思えば、それほど珍しい話でもない。
「ま、ガキでもいいさ。若けりゃ若いほど、調教しやすいからな」
 命の根源たる小宇宙を燃やして、氷の少年に熱を送る。
 人助けの気がまったくない、相手を道具としてしか見ることのできない、汚れた俺の小宇宙を。


■□■


 何日も懇々と眠り続けた少年は、ある朝、とうとう目を覚ます。
 閉じた瞼の下から現れたのは、神秘的なルビーの瞳。
 ガキに興味のない俺でも、この瞳には魅かれずにはおれなかった。
 ……が。
 コノヤロウめ。
 ナマイキを擬人化するとこうなるの見本みたいなガキだった。
 基本、無口で無表情だが、嫌味に関しては天下一品。
 特に俺に対しては、口を開きゃ嫌味の洪水。
 こっちが怒鳴りゃ、すぐ他人の後ろに隠れて舌を出す。
 海将軍共も年下でちっこい新人が元気になってきたからと甘やかし放題。
 誰が助けてやったと思っていやがる!? 命の恩人はこの俺だ! 少しは敬え!!
 他の海将軍には礼儀正しい態度で接するというのに、このカノンにだけ……ぐぬぅ。
 ヒトのコトをオジサン呼ばわりするわ、海将軍などではないと事実を受け入れんわ、暴れるわ、噛み付くわ……。

「人生27年! オジサンと呼ばれたのは初めてだっ!!」

 病み上がりだというのに、目を離すとすぐに行方不明。
 傷が開いて貧血起こし、血まみれになってその辺で伸びているのがせいぜいのクセに。
 本来、自分が守るべき北氷洋の柱によじ登り、海界から脱走などと無謀なことをやらかして、途中から登れない降りられない、屋根の上の仔猫状態に。
 鱗衣を装着していない身で落ちたら助からない高さ。
 自分で作り出した氷柱を柱から生やして、その上に避難しているものの顔色は悪く、いつ貧血を起こしてもおかしくない。
 連れ戻そうと思っても、下手に刺激するとこれまた危険。
 無論、下では海闘士だけならず、海将軍までてんやわんやの大騒ぎ。
 ……俺の寿命もたぶん、10年くらい縮んだ……
 俺とコイツの無益な追いかけっこが毎日のように繰り返され、娯楽の少ない海界での、ちょっとした賭け事の対象となるくらいだった。
 クラーケン様をいつシードラゴン様が捕まえることが出来るか。
などと下位の海闘士たちの話題も耳に届くから、相当広まっているに違いない。
 手を焼いて手を焼いて……終いには、牢にぶち込んでやった。
 しかし他の海将軍の猛反対を受けて、ヤツはすぐに釈放。
 逆に俺の立場が悪くなるだけに終わった。
 今にして振り返れば、あれはあれで俺も楽しんでいたのだと思う。
 あの小僧をとっ捕まえて、その頭上にゲンコツでも落とせば、せいせいした気分になって鼻歌なんか歌っていたのだから。

 
 一人にしておくと何をしでかすかわからないため、目覚めてからもずっと俺がその身を預かっていたワケだが、とにかく幼児並みに目を離せない。
 追いかけっこの結末として、俺とそいつの胴をロープで結んで生活するという、とんでもない事態に発展していった。
 ちょっとでもピンと張れば、こちらから引っ張って、半径2m以上は行かせないようにする。いちいち周りの連中が笑うから、頭にくるが仕方がない。
 そうこうしているうちに2ヶ月、3ヶ月が過ぎ、いつしかアイツは、あれほど恋しがった故郷を諦めて海界に馴染んでいった。
 馴染んだといってもいつまで経っても、他人行儀は抜けなかったが。
 いくら海将軍たちが呼捨てで良いと言ってもなかなか敬称を取らなかったし、敬語もやめなかった。
 暑苦しい友情ゴッコを好むスキュラが仲間と思ってくれないのかと大袈裟に嘆き、それを受けて徐々に態度が軟化していった。
 あくまで俺以外に、だが。
 最初はそれすらロープを外されたいがための演技かと思い警戒していたが、試しに外してやってもさすがに無駄と理解したか逃亡劇を打ち切った……らしい。
 生活の拠点を俺の神殿から、本来の海魔人神殿に移った後も大人しいものだった。
 俺の計画では、恩を着せてさっさと軍門に下らせるつもりだったが、しょっぱなから計算違い。
 ナマイキで頑固で凶暴凶悪……躾のなってない獣。
計算違いはそれだけでなく、コイツは年齢にそぐわない洞察力を持ち、他人の心の動きに聡かった。
 いつも探るように上目遣いで人を視る……気色悪いコドモだったのだ。
 だから俺に懐かなかったのだろう。
 自分が道具にされて捨てられるであろうことを予感していたのかもしれない。
 当時、自分の野望にしか興味のなかった俺は、洞察力とか聡いとか明確な言葉で印象を持っていたわけじゃなかった。
 気色悪いコドモ。癇に障る。こういうタイプが一番、嫌いだ。イジメてやりたくなる。
 大人気なく、粗暴に思っていただけだ。


■□■

 ある晩、守護柱の側にある俺が住まう海龍神殿へヤツがやってきた。
 アンタに話がある、と。
 確かリュムナデスのところに海将軍たちが集まって、ポーカーに興じていたはず。
 そこにノリの悪いコイツもスキュラに首ねっこつかまれて連行されていたと思ったが。
 どうせ酒でもかっくらってドンチャン騒ぎになっているであろう、海幻獣神殿を抜け出してきたようだ。
 そうまでして俺を訪ねてくるとは珍しいこともあるものだ。
 しかも深夜の時間帯。
 よっぽどの用がない限り近づいてもこないのだから、まぁ、つまりは「よっぽど」なのだろう。
 俺も一人で酒を愉しんでいる最中だったが、まぁいい。
 中に入れと顎で示して、扉を閉めさせる。
「で? なんだ、クラーケン。話というのは?」

 俺が問いかけても、ヤツはしばらく黙っていた。
 座るように進めても、ドアの前から動こうとはしなかった。
 何かもの言いたげに紅の瞳が左右に揺れるだけ。
 テメーから押しかけてきて、どうなんだか。
 勝手にしゃべり出すまで放っておこうと俺はまた海闘士が作った、下品で不味い酒を瓶から直接、体内に流し込んだ。

「うえっ。強いばかりで全然、美味くねーわ」
「……美味しくないなら、飲まなきゃいいじゃん。もしかして……バカなの?」
「るせーな。突っ立ってないでこっちに来て座るか、そこにいるならさっさと用件済ませろ。目障りなんだよ」

 急かすといつもの気だるそうな無表情に少しだけ険が浮かんだ。

「それとも何か? 俺に抱かれにきたとか?」

 酒が入っていたせいもあって、品のない冗談でからんでやったら、至極真面目に返された。

「……? 俺、子供じゃないんで、抱っことかやめてもらいたいんですけど」
「ブッ!」

 これには俺も参った。
 口に含んでいたものを派手に噴出し、腹を抱えて笑い転げた。

「そっ、そうきたか! さすが……っ! さすがお子ちゃま!! 抱っこて……チガウ、この場面でそれはないだろ!? 高い高いでも想像したのか?! もしギャグのつもりなら、すごいぞ、お前、天才か!?」

 確かに、スキュラやらセイレーン、シーホース辺りが小柄なコイツを捕まえて無意味に持ち上げたり、グルグル振り回したりとオモチャにしているのは既に日常光景となっている。
 そしてコイツが迷惑そうな顔をしながら、逃れようとジタバタ無駄な抵抗をしている図もお約束となっていた。
 だがしかし。今、この場でそれはなかろうが。

「……意味を図りかねます」

 またしてもクソ真面目に……っ!
 しかも絶対によくわかってない! 何故、笑われたかわからずにムッとしてる!

「あはははははっ! オマエ、最高だよ! な、アイザック?」

 腹を抱えながらフラリと立ち上がって、俺はヤツの頭をグシャグシャなでてやった。
 こんなに腹がよじれるほど笑ったのは、何年ぶりだ?
 ひょっとしたら生まれて初めてかもしれない。
 でも、だって……笑わずにいられるか?!
 コドモじゃありませんって……!
 その言動が既にコドモなんだよ、オマエ!!
 レアだ! レア過ぎる……!!
 今時、コイツと同じ年頃の子供だってこんな素っ呆けた返答しねーし!
 ピュアピュア過ぎて笑い死ぬ!!
 誰がどうやってこんな天然記念物に育て上げたんだ!?

「ナデんのやめてもらえません?」

 不貞腐れたクラーケンは俺の手を払いのけて、気難しそうに口をへの字に結ぶ。
 や、やめれ、そのスネ方も子供以外の何者でもないぞ、クラーケンよ!
 さては俺を暗殺しに来たな? このままでは笑死する……っ!!
 海龍カノン(享年27)/職業:海将軍/死因:笑死
 ……いかん。洒落にならん。この死に方だけは絶対に避けたい。

「質問があります、シードラゴン」
「はははっ……ナニ? 質問? 抱くの意味か?」
「違います! ……その……貴方の……正体について、です」
「……正体?」

 いきなり冷や水を頭からぶちまけられた俺は、笑いを引っ込めて20cmも低いその顔を見下ろした。

「なんだ藪から棒に」
「単刀直入に聞きます。……アンタ、ホントは……」

 一度、言い淀み、目を左右に彷徨わせてから、意を決したように再び口を開く。

「聖闘士……ですよね?」

 俺とヤツの真紅の瞳がかち合う。

「……ははっ。何を言い出すかと思ったら」
(コイツ……どこからそんな情報を手に入れた?)

 真面目に取り合うこともない。
 とりあえず笑い流しておこうとした俺に追及の手は休まらなかった。

「12年前、射手座の聖闘士が反逆罪で誅殺される少し前に、双子座の聖闘士が忽然と姿を消している」
「……それが何か?」

 おい。待てよ? 詳し過ぎやしないか? どういうことだ?
 双子座の不在は一般の聖闘士には明かされていないはず。
 コイツは最初から小宇宙を自在に操り、既に聖闘士として通じる実力を持っていた。
 誰が聞いても茶を濁して語らないが、聖闘士候補生だったのは間違いない。
 だからこそ、聖闘士と敵対するかもしれない海闘士には自分の立場を明かせず、ここから逃亡しようとした。

 

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