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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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カッコウのたまご

「郭公だ」
「どこで鳴いているのかな」
「郭公が鳴いたから、夏が近い証拠だね」
「郭公の声は楽しくていいな」
「エーッ!? 何言ってんの、先生! カッコウが鳴くのは悪い知らせなんだよっ」
「ン? そうなのか?」
「だってマーマが言ってたもん」
「フィンランドでもそうだったな。郭公が寿命を知らせるって」
「ほう。アイザックのところでもか? 私の故郷ではそんなマイナス要素満載な鳥ではなかったぞ? ……ふむ。所変わればってヤツだな」

 カッコウ。
 カッコウ。
 カッコウ。

「あっ、三回で止まっちゃった。どーする、氷河!?」
「わわっ、この中の誰かが3年後に死んじゃう! どーしよ、アイザック!?」
「待てよ? 最初に一回鳴いてたから、合わせて4年だよ、4年」
「変わんないよ、どうしようっ」
「おいおい、お前たちまさか本気にしているんじゃないだろうな? 郭公にも自由に鳴かせてやらんといちいち数えていられたら迷惑だって言っているぞ?」

 10歳の可愛い盛りのあの子たちがいて、16歳のまだ未熟な私がいて……
 それは、4年前の平和だった日々の他愛ない会話。
 あの事故でもない限り、思い出しもしないないような。
 ……4年。
 郭公が悪いわけではないけれど、その不吉な予言は現実となって私と上の子に降り注ぐ。




                                                                                        カッコウのたまご





「……キグナスは……氷河に継がせようと思っている」

 私は悩んだ挙句、使者としてこの東シベリアまで足を運んできたシュラに告げた。

「何? 一番弟子の方ではないのか? お前の判断にケチをつけるつもりではないが、誰の目から見ても力の差が明らかではないか」

 現在、私には二人の弟子がいる。
 13歳になったばかりのアイザックと氷河だ。
 二人には白鳥座の聖衣を巡り、切磋琢磨させている。
 聖衣が1つしかない以上、聖闘士になれるのもまた一人だけ。
 二人のうち、どちらを選ぶか。
 決断するときが迫っていたのだ。
 実力的に申し分のない兄弟子アイザック。
 己に厳しく、聖闘士としての心構えも私などよりよっぽど立派で強固だ。
 常に弟弟子である氷河を牽引してきた、私にとってもありがたい存在であった。
 引き換え、弟弟子の氷河は聖闘士になるつもりがあるのかないのか……
 目に見えた聖闘士の破壊力のみを渇望している。
 性格的に争いを好まぬ平和主義者である彼が力を望むのは、幼くして失った母親が眠る難破船を引き上げたいがため。
 その願いは人として、子供として、当たり前の感情であったが、聖闘士としては甘すぎる。
 実力も心構えもどれ一つ取りあげても、氷河よりはアイザック。
 確かに氷河には眠れる才能はある。伸びしろも大きい。
 その片鱗を見せて、アイザックよりも2年遅く私の元へ来たというのに、だいぶ追いついてきてはいる。
 しかしそれでも埋めようもない差が彼らの間にはあった。
 けれど私には……

「今は氷河の方が下だが、いずれ逆転すると思っている」
「……ほう? それほどか。下の……なんかパッとしない……アレは?」
「う……。ま、まぁ……」

 言葉を濁したシュラの言いたいことはわかる。
 本気で聖闘士を目指しているわけではない氷河は、訓練に対する姿勢は真摯でも勝負に対して頓着しない。
 負けて悔しいだとかそういった気持ちが薄いのだ。
 最初から「アイザックは強いのだから、負けても仕方がない」という、半分兄弟子崇拝の気持ちがあることも彼の成長に歯止めをかける要因だ。
 練習試合を一度見ただけでシュラは彼の気持ちのありようを見て取った。

「ハァ……そうか。残念だな。俺は上の子を押してたんだがな」
「すまない」
「いや、何年も育ててきたお前が言うのなら、間違いないだろう」

 そう言ってくれたシュラだったが、本心は納得しかねている様子だった。
 ……それはそうだろう。
 私も本心とは別のことを言っている。

「しかしそうするとどうするんだ、上の子は? 一般の兵士にしとくにはあまりにも惜しいぞ。……そうだ。他の聖衣に挑戦させてみるというのは? 白銀に空きがあったろう? あれだけの力があれば、今から転向したとしても十分に他の白銀候補生とわたり合えるハズだ。なんなら俺が教皇に働きかけてやっても……」
「いや。ご厚意は有難いが、私はあの子に聖衣を与えるつもりはない」
「!? 何故だ? あそこまで育て上げておいて……っ」

 驚いたシュラが勢いよく立ち上がり、椅子が倒れた。
 その大きな音にまぎれて、別の音が聞こえた気がした。

(まさか、今の話……?!)

 素早くドアを開け放ったが、そこには誰の気配も残ってはいなかった。

(……気にしすぎか? 二人は外で言いつけたメニューをこなしているはずだからな)

 席に戻った私に椅子を立て直して腰を落ち着けたシュラが言った。

「どういうつもりなんだ? あの子は何かマズイことでもしでかしたのか?」
「いや。そうではない。上の子は、聖闘士には向いていないだけだ」
「……お前の自慢の一番弟子じゃなかったのか? 俺にはよほど、下の子のがぽやーんとしてて聖闘士に不向きに見えるのだが?」

 呆れたように彼は肩をすくめて見せる。

「アイザックは……聖闘士としてではなく、私の付き人としてただ手元に置いておく……ということはできるだろうか?」
「何を言い出すかと思えば」

 なんと表現すればシュラに伝えられるだろうか、あの子に感じる私の違和感が。
 年々、力を身につけてゆく弟子二人。
 私はその成長を見守るのが何よりも楽しみだった。
 しかしあるとき、違和感に気づいてしまった。
 氷河にはまるで感じない、この奇妙なカンジは一体?
 決して。誓って言うが、決して、氷河の方が可愛くなってしまって、えこひいきしている……という類のものではない。
 ほぼ24時間、二人とは何年も家族としての時間を共にしているのだ。
 どちらが良いとかそういうものではない。
 二人とも性格も個性もまったく異なる。
 良いところも悪いところも含めて、この子達を私は愛している。
 ……なのに。
 私は時折、アイザックが遠く感じる。
 出会った頃から、あまり感情を表に出すタイプではなかったというのもあるだろうが、それとは別に、何か……上手く言えないが、何かが引っかかるのだ。
 その「何か」が何であるかわからないのに、目の前の先輩を説得するのは困難か。
 私はあの子を聖闘士にしたくない。
 すでに聖闘士として相応しい力量があるにも関わらず。
 本人が熱望しているにも関わらず。
 かといって、元の孤児院に今更、返すなんてこともしたくない。
 まるで捨てたみたいに。
 私はあの子の親ではない。
 だからあの子を……あの子らを見捨てたりしない。
 それに、だ。
 アイザックに関しては、手放すのも恐ろしいと感じている私も存在していた。
 手放すのが「惜しい」、ではない。「恐ろしい」のだ。
 何が怖いのか。
 聖闘士の資格を与えるのが、怖い。
 目の届かないところに置くのも、怖い。
 そうだ、私は恐れている。
 あの子の「何か」を。

「……本当に良いのだな? キグナスは氷河で?」

 話はこれまでだとシュラが立ち上がった。

「ああ」
「お前がそう判断したなら、それはいい。……しかしアイザックのことは……もう少し考えてから決断をしろ。あれだけの逸材を単にお前が手元に置きたいだけなんて許されるとは思えん。断っておくが、お前の弟子はお前のものではないぞ? あくまで聖域から聖闘士になるために派遣されている候補生なんだからな」
「……わかっている」

 彼らはその辺から拾ってきた犬猫ではない。
 聖域に登録されて各地に送り込まれてきた聖闘士のたまごだ。
 アテナを護る聖闘士に育て上げ、聖域に帰すのが私たち導き手の役目。
 聖闘士になれるだけの資質がない者は容赦なく、聖域の名簿から抹消される。
 その多くは命を落すそうだが、私のところでは才能がないと見切りをつけ次第、元いた孤児院に送り返してしまう。
 聖域には死亡、と連絡していたが……たぶん、目の前のこの先輩は私の下手な嘘くらい見抜いているだろう。
 黙ってくれているだけだ。
 しかし今度という今度はそうはいかんぞとあの鋭い目が言っている。

「次、正式にお前が報告に来るまでにもう一度、考えておけ」

 ではな、とシュラは見送りを辞退して、私たちの生活する家から出て行った。
 それは、当のアイザックが海に消える二週間前の話。
 書類を用意した私が重い足取りで聖域に行っていた間に起こった事故だった。
 自分のせいだと泣き狂う氷河を抱きしめながら、私は願った。
 あの日、あの会話を彼が聞いていませんように。
 死んだあの子の心に、絶望を与えていませんように。
 うかつだった。
 あそこで話すことではなかった。
 もし、あのときの微かな物音があの子だったら……そんな想像が私を苦しめ続けた。
 私は19歳。あの子はまだたったの13だった。
 カッコウの予言は、4年後ではなかったか?
 一年早い。一年間違っている。
 返して欲しい。
 聖闘士にしたくなかったが、かといって要らない子ではないのだ。
 氷河を選んだからと言って、不要なわけではない。




 カッコウは予言する。
 4回鳴いたら、寿命だと。




 予言は的中する。
 私がハタチ。氷河が14。
 私は、二度、命を落す。
 本物と仮初の命と。両方をとりこぼす。
 しかしなんの運命のいたずらか、今、生きてこうして存在している。
 冥王との聖戦が終結し、女神が戦果として我々の身柄を要求したからだ。
 戦闘の激しさを物語る十二宮に残った傷跡。
 処女宮までは半壊した無残な宮が続いている。
 皆が生きて再会できた喜びを噛み締めたのち、徐々に戻ってくる日常。
 私は十二宮が再建するまではシベリアに戻るわけにもいかず、そのまま宝瓶宮に残っている。
 生活が落ち着いてきた今日になって、ずっと悩んでいる様子を見せていた氷河が報告をしてきた。
 アイザックが……あのアイザックが生きていたのだと。
 ただし、それは少し前の話で、今は本当にこの世にいない。
 海に落ちて行方不明になり、死亡と判断した私は亡骸のない墓を作った。
 しかし彼は生存しており、ポセイドン神殿にいたのだ。
 我ら聖闘士の宿敵として!
 これが……
 長年私が感じていた違和感の答えとは……
 あまりに皮肉ではないか。
 手元にいたのがアイザック一人のときは気がつかなかったが、新しく候補生として氷河がやってくることによって、小宇宙の種類の違いが気にかかっていた。
 私と氷河の発する小宇宙は似ている。
 氷河だけでなく、他の同僚たちも自分と同種だと感じていた。
 アテナの加護を受けた戦士である証明だったのだ。
 そんな中、アイザックだけが異色だった。
 試しにアイザックを何度か聖域に連れてゆき、聖域で訓練を受けている候補生たちと練習試合をさせたりもした。
 他に彼と同種の小宇宙が混じっていないか確認をしたかったのだ。
 結果は、やはりというべきか……ただ一人、彼だけが違う。
 比べようと思わなければ、気がつかない程度ではあった。
 何しろ、そこは聖闘士の本拠地。
 そこで誰にも咎められなかったのだから、違いはほんの僅かなものなのだ。
だが、一度、違うと気がつけばそこばかりが目に付く。
 個性と思うようにしていたが、やはり私の中で何かが引っ掛かり続けていたのだ。
 アイザックという子は、初めから聖闘士になるべき存在ではなく、すでに海皇から選ばれていたのだ。
 彼は海闘士……それも七つの海を守護する海将軍の一角だったという。
 私は……
 アテナの聖闘士でも頂点に位置する黄金聖闘士でありながら、敵の黄金聖闘士たる海将軍を育てていたことになる。
 私の全てを懸けて。
 むしろ、アイザックにこそ聖衣を与えていれば、弟子同士の殺し合いを回避できたのか?
 聖闘士にしておけば、海将軍であることを拒んでくれたのでは?
 今更なことを考えて落胆した。
 氷河の話では、アイザックは変わり果てていたと。
 修行時代に口にしていた崇高な想いは、別の形にすり替わっていたということだ。
 たった1年の短期間の内に、美しい地上を護りたいと唱えていた者が、地上を滅ぼす側に回るだろうか?
 それとも海皇の加護の元、神の力の影響を受ければ考え方すらも簡単に覆されてしまうとでも?

「……1年か……大きく……なっていたかな、あの子は?」
「はい、カミュ。俺と……やっぱり同じくらいでしたよ」
「……そうか。……辛かったな、氷河。だがよくぞ生きて、アテナを守り抜いた」
「すみません、カミュ。結局、俺が二度もアイツを……」
「自分を責めるんじゃない。アイザックがお前の気持ちをわかってくれていないワケがないだろう?」

 氷河は己を責める。
 自分を助けたせいでアイザックは心身ともに傷を負い、敵対しようとしたのだと。
 だがそんなハズはない。
 氷河を助ける判断をしたのは、他の誰でない、アイザック自身。
 結末をわかっていながら起こした行動に後悔をするような女々しい子ではない。
 彼は自らの命を引き換えにしても、家族である氷河を助けたいと願ったのだから。
 きっと、他に事情があったに違いないのだ。
 少なくともアレは氷河を憎むようなことだけはしまい。
 そんな選択肢が彼の中にあったとはどうしても思えないのだ。
 憎まれるとしたら、その相手は私以外にあるまい。

「氷河……アイザックは、私に対して何か言葉を残していなかったか?」
「……え?」
「例えば……その……謗りのような言葉……とか」
「あの……それは……いえ……」
 氷河はうつむいて顔をそらした。
 なんとわかりやすい。
「……そうか」




 カッコウの予言は、4年目。
 私は死んだが、生きている。
 あの予言は、アイザックのものだったのかもしれない。
 享年14。
 短過ぎた、あまりにも。

「百舌鳥だったのかな、私は」
「……えと……?」
「いや、いい。気にするな」

 カッコウはモズなど別の鳥に托卵し、自分では育てないという。
 托卵された鳥は、自分よりもはるかに大きくなってゆくカッコウの子供を大切に育てる。
 なんだかちょっとおかしいな? などと思ったりするのだろうか、やっぱり。

「それでもきっと、百舌鳥は郭公が可愛いんだろうな」
「…………?」

 笑った私の顔を、氷河は不思議そうに眺めていた。




                            [カッコウのたまご:終了]

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