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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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黄金三角形:7(ミロ視点)

 カミュがカノンと精神的な敵対をした。
 なんとかその場を治めようと右往左往している内にカミュが引いてくれて助かった。
 だが解決したわけではなく、今後も注意が必要だ。
 感情的には、わからなくはない。
 一番弟子が海将軍となって、地上を破滅させる側につき、氷河と戦うことになってしまったのだから。

(……しかし……)

 カミュ本人を前にしてはとても口に出来ないが、アイザックの運命はどちらにしても13歳で水死するか14歳で戦死するか……二つに一つしかなかった。
 カノンは罪人だが、アイザックの死に限っては直接の原因ではない。
 冷静を信条とするカミュのこと。
 しばらくすれば頭も冷えて、そのことに気づくだろう。



「ミロ、すまなかったな。俺のために」
「良いのだ。俺ももっと配慮すべきだった。お前たちの関係に」

 所存なさげに突っ立っているカノンの胸をゆるく握った手の甲で叩く。

「あまり気にするなよ、カノン? カミュは頭の良い男だ。時間はかかっても、いずれ歩み寄れるときもくるさ。諦めず、少しずつでも罪滅ぼしをしていこうではないか。微力ながら、俺も助力する」

 それでも解ってもらえるとは限らない。
 でも大丈夫だ。
 世界中の誰もがお前に背を向けようとも、俺はお前を信じるぞ、カノン。
 人を見る目だけは確かだと自負があるんだ俺は。
 言葉にはせず、心の中でそう語りかけた。

「……ありがとう、ミロ」

 握手を求める手が差し出され、握り返すとそのまま腕を引っ張られた。

「!?」

 あの日の夜のように、またしても俺は前方によろけてカノンの胸に顔を打ち付ける。

「……ありがとう」

 続けてやや強めのハグをされ、俺はうん、だか、ああ、だか特に意味を成さない返事をした。
 カノンは俺が予測するのと全く違う行動を起こしてくれるから、いつもリアクションに困ってしまう。
 背中に腕を回して、こちらからもぎこちなく軽くハグを返すとカノンは少し驚いた顔を見せた後、無邪気な子供のように口に弧の字を描いた。

「じゃあ、またな。……あまり、気に病むなよ」

 丸まった肉厚の背中を幾度か叩いて、身体を離し、俺は双児宮を後にした。



 こんな事件があってから、これまでは自ら訪ねてこなかったカミュが、よく天蝎宮に通うようになった。
 だが俺に会いに来るのが目的ではない。
 本人は会いに来たなどと口に乗せるが、それが単なる建前なのは丸わかりである。
 何しろ、怖い顔をしてやってきて、カノンが来ていないか確認すると邪魔したなと言い残して去っていくのだから。

(ったく、ばかにして……)

 今度来たときは居留守でも使ってやろうか?
 カミュはしきりにお前が心配だというが、なんのことはない。
 カノンに味方(カミュ曰く、利用するための道具)をつけたくないだけなのだ。
 俺がミロであるかどうかなど、どうでもいい話。
 監視されているようで、むしろ気分が悪い。
 一方でカノンもよく顔を見せにくる。
 カノンの方は純粋に友人として遊びにやってくるだけのようだ。
 ゲームを楽しみにして来るのはいいとして、読みかけの本まで持ち込んで、しばらくすると余っているマグカップがいつの間にやらカノン用に成り果てていた。
 それはまぁ、別に構わないのだが、いつ二人が鉢合わせて、ここが戦場にされるかと思うとキリキリと胃が痛むのだった。
 水瓶座と双子座が千日戦争起こして天蝎宮が崩壊しました、なんて洒落にもならん。
 損をするのって俺だけじゃん!
 本来、関係ないっていうのに。
 十二宮に入れる泥棒もいないため、普段は部屋に施錠をしていない。
 それが今回はあだとなってしまった。
 居留守を使おうにも鍵をかけていたら、いますといわんばかりで居留守にならないのだ。
かといって、施錠をしていないのはカノンを除く十二宮のメンバーには周知の事実。
 皆、当たり前のように出入りしているから、居留守のつもりで大人しくしていても、踏み込まれたらフツーにアウト。
 ……まったく。居留守もできないとは……
 プライベートに対する認識が甘すぎたな。
 そういう俺も他の連中の部屋に「遊びに来たぞ」のノリでノックしたときにはすでに足を踏み入れているワケだが。
 完成したガンプラやアニマルフィギュアをお見せしようとアテナのところにも同じようなノリで出入りしていたら、女性の部屋は特にいけませんと先日、ご本人から注意を受けたばかりだ。
 ノックして同時に開け放たないで、最低でも3秒は数えて返事を待ちなさい、と。
 初めは5秒だったが、長いと抗議したところ、3秒に縮めてもらえた。
 ところでどうしていけないのか実はよくわからないまま返事をしたが、そうか。
 居留守を使えなくなるからか。
 勉強になりました、アテナ。
 と、まぁ、そんなワケで住宅高度技術の居留守技を使えない俺は、居場所を求めて聖域内をあっちウロチョロ、こっちウロチョロ。
 結局、午後には原っぱに寝転がって本を読み始めるも、心地よい風が吹いてくるとあっという間に意識も飛ばされていってしまう。
 2、3時間は眠っただろうか。
 まぶたをこすって身を起こすと何故か隣にカノンが寝ていた。

「……オイオイ」

 どこにいても見つかるな。

「まぁ、いいけど」

 よく眠っているのに起こすのは可哀想だと思わなくもなかったが、さりとて自分だけ帰って暗闇に放置も気が引けるので、揺り起こすことに。

「カノン。……カノン。起きろ。日が暮れてきたぞ」
「ん……んん? あ、ああ、ミロか」
「帰ろう、ホラ」
「……帰る?」

 まだ寝ぼけているのかカノンは、大きなあくびをしつつ、差し伸べた俺の手につかまる。

「そうだ。帰るんだ。このままここで寝てちゃ風邪を引く」
「……ふ。母親みたいなことをいう」
「誰が母親だっ」

 母親なるモノがどんなであるか、知識として知っているだけのクセして。
 そういう俺も同じだけれど。

「さて。では“帰る”か♪」

 何が面白かったのか、カノンは愉快そうに肩を揺らし、俺は小さく首をかしげる。



 それから数日後にも同じようなことがあった。
 木陰でやはり本を読んでいた俺がそのうちうとうとし始めて、気がつくと傍にカノンが眠っている……
 日が暮れる前に起こして、また二人で“帰る”。
 他愛ない話をしながら、夕焼けを背にして、友人と肩を並べて歩く幸せ。

「のどかだなぁ~」
「何だ、急に?」
「いや、平和だと思って」

 犠牲者が多く出た数ヶ月前の激闘が嘘のようだ。
 燃えるような太陽が沈んでいくのを眺めていると幼少期が思い出された。

「ガキの頃は夕暮れになるとちょっと寂しかったっけな」
「もう遊びの時間はおしまいになるからか」
「まー、そんなトコ」

 物心つく頃から仲良しで毎日遊んだアイオリアは、暗くなると兄のアイオロスが迎えにきて、俺は一人取り残される。
 俺も兄が欲しいと願ったものだ。
 サガもデスもシュラもアフロディーテも年上は他にいたけれど、彼らはみんなのお兄さんであって、どれも俺の兄ではなかった。
 俺は俺だけの兄さんが欲しかったのだ。
 贅沢な願いと知っていたから、口にはしなかったけど。
 何しろ此処は、同じ願いを持つ者たちのたまり場だから。
 黄金の子供たちと呼ばれ、恐れと尊敬の対象であった俺たちは特に態度に気をつけなければならなかった。
 寂しいなどと口にしてはならない。
 常に強く、強く、強く。
 ……勝手にそう思い込んでいただけかもしれないが、少なくとも俺はそうしてここまできた。
 だけど本音を言うと今、カノンが他の連中と付き合いがないのがほんの少し、ほんの少しだけ嬉しい。
 本当はもしものときを考えるなら、もっと交友範囲を広げてもらわねば困るのだが。
 今だけは兄のような友人でいて欲しいとこっそり願う。
 強くて俺よりずっとオトナで頭の回転が速く、良く物事を知っている……
 それでいて少々抜けたところがあって、隙がある。
 子供の頃に夢見た理想の兄そのものだ。

(でも、必要以上に深入りしてはいけない。きっとまた、重荷だと思われる)

 それに強くあらねば。
 誰から見ても遜色なしと思われるように。
 俺はもう子供ではない。
 寂しいとこっそりベッドの中で声を殺し泣いたりもしない。
 大人なのだ。

(だから、今だけ……少しだけ……)

 そっと服の端をつまんで歩いた。
 アイオリアとアイオロスが手をつないで帰ってゆく背中を思い出しながら。
 カノンはそれに気づいたようだが、目を細めて笑ったきり、何も言わなかったし、ほとくこともせずにいてくれた。


 ………………の、結果。



「ごっ、めっ、んっ、なっ、サイッ!!」

 ……翌日、俺は両手を合わせてカノンに謝罪するハメに。
 なんと。
 いつの間にやら、俺とカノンがデキているというトンチンカンな噂が広まっていたのだ。
 朝の訓練を終わらせて戻ろうとしたところ、井戸端会議をしていた連中の声を聞きかじって知ったのである。
問い詰めてみれば、少し前からそんな噂が広まり始めていたという。
 裏付けるように昨日の夕方、手をつないで歩いているのを目撃した人間がいると騒ぎになっていたのだ。
 手はつないじゃいないが、俺が服をつかんだのは事実。
 兄弟のようだと思っての甘えた行動が、色眼鏡で見られると途端に恋人同士の甘い時間に……!?
 妙な噂がある中であんな行動をとってしまうとは、知らなかったとはいえ、軽率だった。

「俺は構わんが? ……むしろ……」
「ん? “むしろ”?」
「いや……ああ、そうだ。すっかり忘れていた。借りていたカーディガン、返そうと思っていたのだ。ちょうどいい、持ってくるからそこで待っててくれ」

 カノンはそう言うと出てきたばかりの双児宮に引っ込んだ。
 しばらくして手渡されたのは、俺のカーディガンと別の物。
 着てみてくれというからその場で袖を通せば、デカすぎで指の先しか出てこない。

「おお、似合う、似合う♪」
「似合うってこれ……」
「すまん。借りたカーディガンな、引っ掛けてほつれてしまったのだ。だから代わりに買ってきたのだが、ちょっとサイズを間違えた」
「別に弁償なんて良かったのに……しかもサイズ間違うとかありえねー」

 カノンと俺は見たところ、5㎝も変わるまい。となれば服のサイズも自分を基準にすればよいものを。
 マヌケなんだから……

「手に取ったときにちゃんと確認しなかったんだ。ゆったりめも似合っているから良いではないか♪」
「ゆったりしすぎだろ。まぁ、くれるんなら、着とくけど」
「そうそ♪」
「話は戻るが、」
「えっ、戻すのか?!」
「ん?」
「い、いや、続けて……どうぞ」

 珍しく焦った様子のカノンだったが、さして気に留めず俺は続けた。

「今後しばらく噂が落ち着くまでは、十二宮の外で行動を共にするのはやめよう」

 ご機嫌に笑っていたカノンの表情がたちまち神妙になる。

「……何故だ?」
「だから、今言ったろう。噂が……」
「お前はその噂が不快なのか?」
「い、いやそういう……」

 ……え~?
 なんだ、その問いは?

「不快とかそこまで思ってはいないが、困るだろう、お前だって」
「困らん」
「う。つ、つえぇ~」

 きっぱりと断じられてたじろいだ。
 さすがはカノン。下らん噂などに振り回されたりはしないというのか。
 やはり年上は違うな!
 後ろめたくなければ、どんと構えていろと。
 そういうことなのだな?!

「……強い? 何を言っているのかよくわからんが……」

 言葉を止めたカノンの視線が俺を通り過ぎ、巨蟹宮へと続く階段を見上げて静止した。
 つられて俺も首をひねり、視線を追うとそこにはカミュの姿が。
 うわぁ……ついに鉢合わせてしまった。
 一本道でカミュが下に降りるには、どうしたって双児宮を通る。
 そうすればいずれは顔を合わせるに決まっているが、何も彼ら+俺がいるときでなくともいいではないか。

(どうする? カミュも足を止めてしまったぞ? 何も気にしないカンジで挨拶してみるか? そしたらそのままスルーしてくれる? それとも……千年戦争勃発?! それだけはやめてくれ~! ここでやらかすとどうなる? 双児宮と巨蟹宮が被害をこうむるか。……デス……怒るじゃ済まないだろうな……)

 ぐるぐると短い時間に思考が駆け巡る。

「ミロ。こっちを向け」
「!? なんだ、カノ……」

 呼ばれて振り向いた瞬間、パニックに陥っていた思考が停止した。
 真っ白、という表現がピッタリだった。
 驚きのあまりに見開いた両目にはカノン……の顔がごく間近に映る。
 唇に、しっとりと柔らかい感触。
 これは……

「……う……」

 キス、だ。
 キスをされた。
 あまりに唐突なこの状況を理解するのにどのくらい時間を要したのだろうか。
 あわてて顔を離すと首筋を引き寄せられて、もう一度、口付けを受ける。

「ばっ、かっ! 何すんだよ、いきなりっ!!」

 相手をどついてようやく身を離し、咄嗟に階段の上を振り仰ぐ。
 氷の彫像よろしく固まっていたカミュは、俺の視線を受けてハッと我を取り戻したようだ。
 彼はゆっくりと足を進め、すれ違いざまに言葉を残して立ち去った。
 邪魔したな、……と。
 俺はそのまま遠のいていく背中を眼で追い、胸にちくり、痛みを覚える。
 …………なんだろう。
 とても、痛い。
 たった一言なのに。
 別になんということはない一言だったのに。
 力なくへたり込んだ俺の肩にカノンの手が触れる。

「……すまんな。カミュとは恋人だったっけか」
「…………………。」

 たっぷりと沈黙を挟んで、ようやく俺は違う、と小さく答えた。
 あとはもう、カノンが何を言ったか、俺がなんと返答したのかまるで覚えていない。
 なんだっけ?
 ええと……
 ああ、もう、頭が追いつかない。
 今あった出来事に。
 感覚が遠くなった足を一歩一歩、機械的に動かしてようやく天蝎宮。
 自分の部屋にたどり着くとドアにもたれてうずくまった。
 膝を抱えてそこに額を乗せる。
 ああ、脳が麻痺してしまった。
 何も考えられない。
 とりあえず、そうだ。

「コーヒー……」

 コーヒーでも飲んで落ち着こう。
 それがいい。名案だ。
 よたよたとまだ力の入らぬ足で台所に向かい、湯を沸かした。
 インスタントコーヒーの粉のつもりで、隣の缶から紅茶の葉をカップに入れた俺は沸騰しかけの湯を注ぎ、一口。

「ぶおっ!??」

 口の中に大量の葉っぱが流れ込んできて、むせて吐き出す。

「なんだ、コレッ!?」

 苦しさのあまり、カップを持っていることも忘れて激しく咳き込み、揺れて飛び出した中身が足を直撃。

「あぢぃーっ!!!」

 思わず放り出したマグカップが床に転がり、残りも床に広がる。
 ジーンズの上から熱湯をかけてしまった俺は、飛び跳ねながら浴室へ。
 コックをひねるのももどかしく、ようやく冷水を患部に…………と思ったら。
 水道蛇口の方ではなく、隣のシャワーの方をひねってしまったらしい。
 差し出していた右足だけでなく、頭からずぶ濡れ。

「は……はは……なんだよ……もぅ……」

 サイアクだ。
 今日はなんて日だ。
 厄日だ。
 もはや、自分を動かす気力は尽き果てた。
 着替えるのはおろか、立ち上がる気力さえもう残っていない。
 短い間に許容外のことが起こり過ぎた。

(……もう寝よう。下手に動かない方がいいときもある。考えるのは、明日でいい……)

 濡れるに任せてズルズルとタイルの上に座り込んだ。

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