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星の墓場

星矢再熱。腐です。逃げて! もはや脳内病気の残念賞。お友達募集中(∀`*ゞ)エヘヘ

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黄金三角形:8(カノン視点)

また眠ってしまっていました~;
でも土曜日中に更新はなんとかなったぞ、と。
いつもコメントありがとうございます。
これからお返事φ(`д´)カキカキしまーす(*´ω`*)vV



“だが、どうか……どうか、許して欲しい。カノンは本当に悔いているのだ”

 アクエリアスが双児宮にいきなりやってきて難癖をつけてきた日。
ミロが俺を背に回す形で庇ってくれた。

“ちょっとばかりヒネているから、そうは見えんかもしれないが、今後もずっと、生涯をかけて償っていくつもりなのだ、カノンは。今すぐでなくていい。だが、もう少し時間をくれてやってくれ。……頼む”

 アクエリアスと反目してさえ、俺を……このカノンを庇い立てしてくれたのだ。

“あまり気にするなよ、カノン? 時間はかかっても、いずれ歩み寄れるときもくるさ。諦めず、少しずつでも罪滅ぼしをしていこうではないか。微力ながら、俺も助力する”

 俺のために。
 俺のために。
 ああ……
 ……ああ!






 ミロからせしめたカーディガンを抱き、ベッドに横たわる。

「……ミロ」

 もうとっくに香りもぬくもりも残ってはいない。
 それでもアイツが着ていた物だと思うと触れずにはいられない。

「ミロ」

 借りたこれは引っ掛けて解れてしまったことにして、代わりに新しく買った物を渡すつもりでいる。
 そう、今、俺が着ている大き目の物を。
 ミロのカーディガンを抱いた俺は、ミロにやる予定のカーディガンを着て、淫らな空想に身を任せる。
 彼は知らない。
 己がどんな目で視られているのか。
 独りでいるときはもちろん、二人で他愛ない雑談をする合間にも俺の頭の中は征服することでいっぱいだ。
 隣に立つお前の首元に視線を這わせては、着ている服の、その下にある素肌を想像する。
 乱れて弾む息、汗の匂い、漏れ聞こえる喘ぎ声。何度でも飽くことなく思い描く。
 こんな本心を知れば、お前はきっと軽蔑するだろう。
 嫌われるのは恐ろしいからもちろん実際にはやりはしないが、一度、醜い俺の内側をさらけ出してみたい欲求に駆られる。
 戦慄するだろうか。屈辱のために烈火となって怒りだすだろうか。
 そうした上で、全てをあげたい。その身に否応なく、俺の全てを注ぎ込んでみたい。

「……はぁ、ミロ……」

 会う度にどうしようもなく惹かれてゆく。
 この手に落ちてきて欲しい、黄金の林檎。


■□■


 理由をつけては8番目の宮まで足繁く通う。
 そして少しずつ、さりげなく自分の居場所を割り込ませてゆく。
 毎回、同じ場所に陣取り、同じマグカップを借りる。
 私物を持ち込んで、置いてゆく。
 親密さを認識してもらうのだ。
 恋人であるアクエリアスとは見たところ、あまり上手くいっていない様子。
 これならまだいくらでも巻き返せる。
 そもそも土台が違うのだ。あのような軟弱クンにこの俺が負けるはずがない。
 力も経験も想いの丈も。
 全てこちらが勝っている。
 敗北する要因など見当たらない。
 分が悪いとすれば、すでに恋人関係だという一点のみ。
 それ自体は大した障害ではないが、ミロの気質が問題なのだ。
 愚かしいほどに一途で律儀。
 例え心ではこちらに傾いたとしても、おいそれと元の関係を崩してくれるかどうか。

(それでももし……我が手に落ちてこぬならば……)

 正攻法でなくともよい。
 最終的に手に入りさえすれば、この焼け付く胸の痛みからは開放されるはず。
 とにかく今は一時しのぎでもいい。
 会って安心したい。
 俺はいつものように同じ時間に階段を上る。
 しかし今日はどうしたことか、ノックしても返事がない。
 俺が来るとわかっている時間に留守とは……ナマイキな。

(まさか11番目の宮か?)

 小さく舌打ちをし、宝瓶宮まで駆け上がると踏み入る手前で小宇宙を探ってみた。
が、気配がない。
 よかった。ここではなかったか。
 次いで今来た道を急ぎ足で下り、聖域内をくまなく探す。
 訓練場、図書館、広場、診療所、宿舎……
 黄金である彼にはおそらく無関係の施設にまで足を運び、しらみつぶしに探し回った。

(絶対に見つけ出してやる。……ふん。俺から逃れられると思うな)

 小さなことに腹を立てながら大股で歩いていると……
 おっと、見つけた。
 顔に本を開いて乗せて、原っぱに転がっているのはまさに探し人。
 声をかけて側まで来たが返事がない。
 どうやら眠っているらしかった。

「どれ?」

 本をどかして顔を覗き込む。

「……おい」

 もう一度、声をかけたがすっかり寝入ってしまっており、ちょっとやそっとでは起きそうもない。
 無防備に眠っている顔を見るとすぐに不機嫌が吹き飛び口元に笑みがこぼれる。
我ながら現金なものだと思う。存在を確認できただけでこうも幸せな気持ちになれるとは。
 滑らかな頬に指を滑らせ、ふにふにとつついてみる。

「うっ、ううん」

 迷惑そうに呻いて眉根を寄せるミロ。

「はははっ」

 意地悪く笑った俺は、ゴメンゴメンと髪を撫でてやる。
 鼻をつまんだり、くすぐったりなんかもしてみたかったが、こんなに気持ちよさそうに眠っているのにちょっと可哀想かな。
 仕方ない。やめておいてやるか。
 上から覗いてくすりと笑う。

「……あどけない顔しやがって…………キスすっぞ、コノヤロ」

 どれだけ長い間、眺めていても飽きなかった。
 自然と手が伸びて柔らかな髪を弄ぶ。
 コレが……この青年が俺のものであったなら。
 蠍座は一途だという。
 その一途さが俺に向いてくれたなら……

(大事にするぞ。誰にもお前を傷つけさせたりしない。誰にも触れさせない。だから……)

 自分の世界に入りかけたとき、複数の足音と会話が聞こえてきた。
 我がアテナ軍の兵士たちである。

(………………。)

 俺はこのときふと思った。
 堀から埋めていこう、と。
 自然と口元に悪い笑みが浮かぶ。

「マジやってらんねーよなぁ。なんで俺たちが……」
「シッ!」
「なんだよ?」
「あそこ……ミロ様とサガ様の弟だぞ」
「あんなところで何やってんだ? ……あっ!?」

 気配が止まったその瞬間を見計らって、俺は眠る林檎姫の唇にキスを落とした。

(……柔らかい……)

 十分に時間をかけて唇を離すと兵士たちはまだそこにいた。
 言葉もなく、呆然と立ちすくんでいた彼らは俺が顔を上げると慌てて逃げてゆく。

「……よし」

 彼らは現場を目撃した証言者となり、俺に都合の良い噂を振りまいてくれるだろう。
 この聖域中に。
 おしゃべり好きな小鳥のように、多くの者たちに囀っておくれ。
 アクエリアスの手から宝物を横取りする明るい未来を思い描いて、心が浮き立った俺は身体を横たえ、意中の相手をゆるく引き寄せて目を閉じる。
 ここを通る人間がもっともっと俺たちの仲を誤解して触れ回ってくれることを望みながら。



■□■



「カノン。……カノン。起きろ。日が暮れてきたぞ」

 ……日が落ちる頃。
 揺り起こされた俺は、一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。
 楽しい空想をしているうちに本格的に眠ってしまったようだ。

「ん……んん? あ、ああ、ミロか」

 そうだった。ミロの昼寝に便乗していたのだった。

「帰ろう、ホラ」
「……帰る?」

 大きく伸びをしていたら、手が差し伸べられた。

「そうだ。帰るんだ。このままここで寝てちゃ風邪を引く」

 まるで愛息を気遣う母親のようだと思ったことを口にしたら、誰がだと叱られた。
 しかし……帰る、か。
 なんて良い響きだろう。
 特にコイツから言われると特別幸福な呪文に聞こえてくるから不思議だ。
「さて。では“帰る”か♪」
 隠し切れない喜びを解き放てば、ミロは不思議そうな表情で小首をかしげている。
 ふふふ。よいのだ。お前にはきっとわかるまい。
 それでもよい。
 お前はそのまま自然体でいてくれ。
 いつまでも……できれば、俺の傍で。




 それから数日後にも同じチャンスが巡ってきた。
 木陰でやはり本を読んでいたミロを発見。
 他人の気配を察するとそっと唇を重ね、満足すると片手をつなぎ、一緒にうとうと惰眠をむさぼった。
 日が暮れる前に起こしてもらい、また二人で“帰る”。
 他愛ない話をしながら、夕焼けを背にして、思い人と肩を並べて歩く幸せ。

「のどかだなぁ~」
「何だ、急に?」
「いや、平和だと思って」

 一度足を止め、燃えるような太陽が沈んでいくのを眺めるミロの眼差しは遠く。
 そんな彼の金髪が真っ赤に染まって、俺はただ、美しい、と思った。

「ガキの頃は夕暮れになるとちょっと寂しかったっけな」
「もう遊びの時間はおしまいになるからか」
「まー、そんなトコ」

 再び歩みを進めてしばらく、重くはない沈黙の時間が流れた。
 ふいに服が引っ張られて鼓動が跳ね上がる。
 ミロがうつむいたまま、俺の服の裾を遠慮がちにつかんでいた。
 ……なんだ、これ?
 キタイしてもいいってことか?
 ちらりと前髪の間から覗く青い瞳と視線がかち合った。
 下心を隠して微笑んで見せるとミロはまた俯く。
 こんな態度を見せられたら……俺は……もう……



 翌日。
 昨日の今日でそわそわと落ち着きを失っていた俺は、足取りも軽く双児宮を出立した。
 もちろん、8番目を目指して、である。
 ところか何の幸運か。
 ミロから俺に会いに下ってきたのである。

「ごっ、めっ、んっ、なっ、サイッ!!」

 俺を見るなり手を合わせて謝罪。
 なんのことかと目を白黒させていたら、どうやら例の噂が本人の耳に届いたらしい。
 少し前から噂があったと井戸端会議の連中から聞きつけて、それを裏付けるように昨日は俺の服をつかんでしまったものだから、おかしな噂に真実味を持たせてしまったと謝罪しに来たようだ。
 無論、俺が迷惑するはずもない。
 何しろ、噂を分撒いた当人なのだから。
 他人のゴシップに無頓着なミロの耳にもようやく届いてくれたか。
 聞いても何も思われていないのではないかとそろそろ心配になってきたところだ。

「俺は構わんが? ……むしろ……」
「ん? “むしろ”?」
「いや……ああ、そうだ。すっかり忘れていた。借りていたカーディガン、返そうと思っていたのだ。ちょうどいい、持ってくるからそこで待っててくれ」

 平謝りのミロに思わず本音を漏らしそうになり、慌てて話題を変える。
 自ら羽織り、幾度となく妄りがましい空想で独りの夜を慰めた例のカーディガンを何食わぬ顔で取りに戻ると被害者に手渡した。
 その場で着衣を勧めながら、自分の中で黒い欲望が膨らむのが自覚できた。

「おお、似合う、似合う♪」
「似合うってこれ……」

 手の先が少し出る程度の大きな物をわざと選んだ。
 下半身の衣服を脱がしたときに中途半端に秘所が隠れている方が一層、イヤラシイなと頭に浮いてしまった結果だ。

「すまん。借りたカーディガンな、引っ掛けてほつれてしまったのだ。だから代わりに買ってきたのだが、ちょっとサイズを間違えた」
「別に弁償なんて良かったのに……しかもサイズ間違うとかありえねー」

 そんな俺の胸中も知らず、ミロは不満半分に袖を引っ張り上げている。

「ところで話は戻るが、」
「えっ、戻すのか?!」
「ん?」
「い、いや、続けて……どうぞ」

 うおっ。せっかく気をそらさせたのに、忘れてなかった!
 俺の本音を問い詰めるつもりかと身構えたが、続いた言葉はもっと酷い内容で思わず固まってしまう。

「今後しばらく噂が落ち着くまでは、十二宮の外で行動を共にするのはやめよう」

 鈍器で殴られたような衝撃が響く。

「……何故だ?」
「だから、今言ったろう。噂が……」
「お前はその噂が不快なのか?」
「い、いやそういう……」

 噂を不快に感じるのだとしたら、友人だがそれ以上はないと壁を作られている。
 そういうことではないか。
 懸命に食い下がるとミロは困惑した表情を見せて言う。

「不快とかそこまで思ってはいないが、困るだろう、お前だって」
「困らん」

 きっぱり言ってのけるとミロはたじろいだ様子で「強い」と口にする。
 今の会話の流れから「強い」とはどういう意味か。
 時々、若い子の感覚についていけないことがある。

「……!」

 階段の上に第三者の気配を感じ取り、やり取りを中断して顔を向ける。
 巨蟹宮から出てきて下って来ているのは、アクエリアスだった。
 ミロも気づいたのか俺から意識を外し、同じ方を向く。

「……カミュ……」

 小さな呟きは本人の意識外だったに違いない。
 だが、それが俺の癇に障った。

「ミロ。こっちを向け」
「!? なんだ、カノ……」

 ミロを呼びつけ、振り向いた瞬間にキスをした。
 何が起こったのか頭が追いつかないでされるがままになっていたミロが状況に追いついて顔を離そうとするもそれを俺が許さない。
 首筋を引き寄せて、強引に口付けの続きをする。

「ばっ、かっ! 何すんだよ、いきなりっ!!」

 何なら、この場で組み伏せてやろうかなんて考えがよぎったと同時に胸を強くど突かれて引き剥がされた。

「……ふ」

 どうだ。
 貴様への宣戦布告だ、受け取ったか。
 氷の彫像よろしく固まっていたアクエリアスを睨み付けて不敵に笑ってみせた。
 呪縛から解き放たれた奴はゆっくりと足を進め、すれ違いざまに言葉を残して立ち去った。
 邪魔したな、……と。
 俺はそのまま遠のいていく背中を眼で追い、少し、妙な気持ちに取り付かれる。
 恋人が他の男に奪われそうだというのにそれだけか?
 肩透かしもいいところだ。
 もし自信があるのだとしても、俺が奴の立場なら相手の男を許しはしない。
 この場で始末をつけるであろう。
 あれではまるで無関係の他人だ。
 もしや……
 もしや二人は……

(……なんだ、噂は噂だったのか)

 水瓶と蠍は昔からデキている。
 その話を鵜呑みにして噂に踊らされていたのは、俺だったとでも?
 力なくへたり込んだミロの肩に俺が手を置いた。

「……すまんな。カミュとは恋人だったっけか」
「…………………。」

 たっぷりと沈黙を挟んで、ミロは小さく頭を振って答えた。
 違う、と。
 恋人同士ではなかったのは良かったが、むしろ厄介になったのではと思う。
 ミロは……
 きっとミロは、アクエリアスに一方的な想いを抱いているのだ。
 だとしたら事は簡単ではないかもしれない。
 恋は追っているときが一番激しいのだから。
 俺の存在がないかのごとく、もう、何を問いかけても返事はなかった。
 魂が抜けた身体がふらつく足取りで階段を一歩一歩上っていく。
 忌々しいことだが、今引き止めてもどうにもなるまい。
 ミロが落ち着く頃を見計らって、今度こそ気持ちを打ち明けよう。
 愛を甘く囁いて、振り向かぬ男など忘れさせてやるのだ。



 

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